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宿泊施設での忘れ物・落とし物の話

宿泊施設で働いていると、施設内での忘れ物・落とし物に関する業務がある。
カプセルホテルで働いていた時は、落とし物は小物や下着の類いが多かった。風呂場や乾燥機に靴下やTシャツの忘れ物、個室にイヤホンや充電ケーブル、アクセサリーの忘れ物、といったところ。スマホや財布と言った貴重品は事務所の金庫で預かり、申し出があったら特徴などを聞いて本人確認をしてから返却していた。しかし貴重品以外の忘れ物は、一定期間保管するが、落とし主が分からないまま廃棄となることも多かった。

そこでは忘れ物はそれなりにきちんと管理されており、発見者(主にベッドメイクさんや清掃スタッフ)の名前と発見場所、日時、忘れ物の名称を書いた一覧と、忘れ物そのものはそれぞれ、服の類い、アクセサリーや小物、スマホ関連品と大まかに分類されて棚に保管していた。お客様から問い合わせがあると、まず一覧で確認し、その後該当の品を保管棚に確認に行くといった手順だった。

現在働いているキャンプ場では一覧表などはなく、発見日時と場所の記載はあれど、忘れ物は一カ所に保管されているため、問い合わせがあったときはここから探し出すのが難儀であり改善したい点ではある。

さてこの夏休み中のある日、「施設内を流れる川で遊んでいる時に息子が落としてしまった」というトイカメラについて、父親からの問い合わせ電話があった。
「色は水色で、見た目はレゴブロックに似せてあり、防水ケースに入っている。首からかけるストラップがついているトイカメラ」とのこと。チェックアウト後数日程度の連絡だったこともあり、外回りスタッフに特徴を伝えて探しに行ってもらったが、結局見つからなかった。見つかったら折り返し電話をかけると伝えていたので折り返しはせず。それから数日が経過、夏休み中の繁忙期ということもあり、このトイカメラのことはその他多くの発見に至らなかった落とし物と同様、私はほとんど忘れかけていた。

そんなある朝、チェックアウトに来た親子連れのお客様が「川の近くに落ちてました」と小さいカメラを届けてくれた。受け取ったのが偶然私で、手に取った瞬間「あのトイカメラだ!」とすぐに思い出した。やっぱりあったんだ、見つかって良かった、と喜んだのもつかの間、くだんの問い合わせと捜索からすでに数日、いや1週間以上が経過しており、トイカメラのお客様の連絡先メモは処分してしまっていたため、せっかく見つかったのに知らせるすべもなく、このカメラも処分するしかないのかと私はかなり落胆した。

他のフロントスタッフにもいきさつを話して、あのときのメモを保管しておけば・・・でも毎日何件も受ける、見つかる確率の方が低い忘れ物問い合わせの履歴を全て残しておくのは業務を増やすことにもなるし、どうしたものか、どうすべきか、などとひとり悩んでいたところ、カメラを受け取ってから10分も経たないうちに、なんとトイカメラのお客様から再び電話がかかってきたというではないか。

別の男性スタッフが電話を受けてくれたのだが、彼によると父親の話として「キャンプ場以外でも思い当たるところを探してみたが、やはり見つからないため新しいものを買おうとしているが、最後にもう一度問い合わせてみた」というところだったとか。タイムリーというか、奇跡としか言えないタイミング。私は安堵と喜び以上にその偶然に驚いた。

トイカメラはその日のうちに丁寧に梱包され、通常の忘れ物と同様、着払いにて男の子の待つ家に送り届ける手配が取られた。私はこの上なく安堵し、不思議な偶然に驚きつつも感謝し、今後は忘れ物問い合わせの履歴を残すことを心に決めた。今朝のような悲しい落胆と無力感は二度と経験したくないから。

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