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幸せに、肩まで浸かる -青森小旅行手記-

青森に来て2日目。
今日の目的地は酸ヶ湯温泉。全国的にも名高い豪雪地帯である。
迎えのバスに乗り込むまでの時間、少し観光をしていくことにした。

ホテルの窓より。白く染められていく弘前の静かな朝を眺める。


ホテルを出る頃、雪は止んでいた。
北国の冬の空は次々に心変わりしていく。
密かに楽しみにしていた岩木山は、今日も見えずじまいになりそうだ。


昨日の晩のうちに、朝から開いている喫茶店を調べていた。店内のポスターによると、弘前は珈琲の街らしい。
上品なママがのんびり作る、ゆで卵入りのホットサンド。愛らしいコーヒーカップから溢れるホイップクリームは、さながら窓の外に見るたっぷりとした雪のよう。


朝食を食べ終えると、外ではまた雪が降り始めていた。
人通りもまばらな冬の弘前であったが、この日は成人式があったようで、道ゆく車の窓越しに晴れ着姿を見かけたりした。

真新しい雪を踏むときの、きしきしとした音だけが聞こえる
津軽といえば林檎


駅まで戻り、どんどん白くなる弘前をあとにし、青森へ向かう。
車窓から見る雪原は田んぼだろうか。夏の青々とした姿にも思いを馳せたりする。きっと美しいんだろうな。


1時間ほど列車に揺られ、青森駅に着いた。
昼食を取りつつ、14時に迎えにくる酸ヶ湯温泉の送迎バスを待つ。

真白な雪に映える、真っ赤な林檎の色をした建物は、一年を通してねぶたの迫力を味わえる観光施設。数年前ここを訪れたのをきっかけに、昨年の夏、ねぶた祭りに念願のハネトとして参加した。今回青森へは夏ぶりの訪問である。
「特急つがる」が停車していた。大きな橋の向こうには本物の津軽海峡冬景色が広がっている。8月初旬、この港でねぶたを海に浮かべ、花火も打ち上げられる。青森の短く熱い夏である。


約束の14時。宿の送迎バスは、私たちを乗せてどんどん山あいを進む。車窓の景色から、ひとつふたつと色が減ってゆく。


小一時間ほど、バスのゆりかごでうつらうつらとし始めたあたりで、今日の目的地に到着した。

雪が強く降っていたので、写真もそこそこにして足早に玄関へと向かう。
部屋に案内された後は夕食まで時間があったので、名物のヒバ千人風呂に夫婦で浸かったり、館内を歩いて回ったりした。


酸ヶ湯温泉を訪ねるのは2度目だが、ここで一晩過ごすのはこれが初めてである。宿泊者は私たちのような観光客よりもスキー客が多いようだった。

歩く度に軋む廊下の床、つるつるになった手すり、部屋の広縁のすり硝子、温もりあふれるヒバの浴槽、硫黄の匂いが漂う湯けむりとにごり湯。湯上がりに飲んだ八甲田の伏流水が身体に染み渡る。

温泉に肩までとっぷりと浸かり、美味しい山の幸海の幸に舌鼓を打ち、敷いてもらったふかふかの羽毛布団に潜る。
幸せってこういうことだったな。
そんなことを思いながら眠りについた。

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