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謎ミスコンに出たらなんやかんやでミラノコレクションに行くことになった
私は友達が少ない。
体でかい(177センチもある)くせに、心が小さいから。
その分、友達のことは大好き。
大好きな友達が言っていた夢がある。
だから私はその友達と一緒にミラノへ行く。
少しだけ頑張って入った大学を卒業後、私はすっかりなんでもない人になっていた。
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9時(8時半)に出社し、17時(20時)に退社(残業代はない)し、帰って寝る日々。多分私のことが嫌いな上司は今日も印刷プレビューに文句を言う。
別に、それで良かった。
脳内でいつもショートコント『昭和の事業所』を開催しながら一人で『笑ってはいけない』も開催していた。ど滑りしているから笑いどころは特にない。
「この服着てみて」
「ええなんで、やだよ」
「この服着てみて」
「ええで、まぁ見とけ」
服が好きな先輩の一言に、何故かこの日だけは違う返事をした。この日はシャワーの温度がちょうど良かったからといった、そういうレベルの違いだったように思う。
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「かっこよ」
その日、初めてかけられた言葉に嬉しいと思えた。
「頭いいね」「屁理屈捏ねるな」
「可愛い」「とりあえずそう言っとけばいい」
「かっこいい」「まぁ私は可愛いからね」
某古都言葉も仰天なネガティブ変換で引きこもりライフを謳歌していた私には初めての感情だった。
この高揚感をまた味わいたいと思った私は、何も分からないまま、Instagramのアカウントを新しく作って、撮ってもらった写真や縁があって呼ばれたショーの写真を載せた。
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正直言って最初だけで、すぐに行き詰まった。
たまにくるよくわからない勧誘DMは全て無視していた。
でもなんとなく、服は好きになれた気がしたから、何かと理由をつけては新しく迎えるようになった。
そんなある日、モデルを目指していた大好きな友達が折れた。
私にとっては最早半身のような友達だった。
いつメンというわけではないけれど、それぞれの場所で毎日を戦い続けるのだと、なんとなく思っていた。
この話はこれくらいにしておこう。
私は、好きになった人に対して、「その人になりたい」なんて思う癖がある。
だから、真似をして、勧誘DMに乗っかって、よくわからないミスコンに出てみた。
蓋を開けてみれば、毎日何時間もスマホの前に座り続けてライブ配信する、苦行そのものだった。
正直全然意味がわからなかったけど、とりあえず続けてみた。
会社員の私には、意味のないことを続けることに対して、耐性があったのかもしれない。
あまりにも意味がわからなかったが、そのうち何人か、2日に一回くらいの確率で固定で来てくれる人(後に介護班と呼ばれる)が誕生した。
介護班のみんなは、色んなことに努力している人達で。
努力に押され、私も目標を定めていかことができた。
ある介護班が言った。
『ミラコレ出てよ』
簡単に言うなと思う私と、目標は高くしておきたい、そんな私がいた。
結果、言ってしまった。
言ってしまったからにはやるしかなくなる。
そこから私の事務所探しが始まった。狙いはなんとなく定まった。遠いなあ。
そんなところに、ライブ配信を通じて不思議なアポがあった。
「緊急で話したいことができたから会える?」
お相手は、パリコレミラコレに何度も出演経験のある日本トップモデル。
毎日配信で体力は限界だった。
でも直感がこう告げた。
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翌早朝、都内某所。←言いたかったやつ。
トップモデルと引きこもりの密会が行われた。
「東コレのオーディションあるから、写真用意して」
東コレとは。東京コレクション。正式名称楽天ファッションウィーク。パリコレやミラコレに続く形で日本にもファッションウィークを作ろうということでできた、日本ファッションの最先端。
そんなもののオーディションを受けられること自体、奇跡のようなことだった。慌てて用意した写真達。
そして。
何故か写真審査に通ってしまった。流石に奇跡としか言いようがない。
後で聞いた話だけど、この写真達、見るに耐えないから事務所の人がこっそりレタッチと編集をしてくれたらしい。本当にありがとうございます。
キャスティング(写真審査に通ったモデル達が実際にショーに出るに相応しいかのウォーキング審査員)に参加した。
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圧倒された。それと同時に味わえた気がした。
あの高揚感を。
結果としては、キャスティングには選ばれなかった。でも正直、納得はした。目指すところ、超えたいところを触れることができた。楽しかった。
あれ?ミスコンの話は??
あぁ、はい。ご質問ありがとうございます。
ZANPAIです。
毎日配信はやりきったし、最終日は配信アプリ内のデイリーランキング総合7位にはなった。あと、渋谷の広告に載ると言われてもう2ヶ月、いつやねん。
閑話休題。
夏が終わると秋冬が始まる。ミスコンも東コレも終わり一段落したから、これからの自分に向けて、気合の入った秋冬服を迎えようとしていた矢先。
「緊急でミラノファッションウィーク枠できたけど来る?」
理解できなかった。というかまだ理解できてない。
どう考えても実力不足な私だし、謹んで辞退することも考えた。
『もっと強くなって、然るべきタイミングで挑むべき。』偏差値だけは少し高い(ことにしておく)この頭は、そう言う。
取れる時に取らない臆病者に何ができる?てか、やってみたいやろ。
確かに。
というわけで、2週間後、ミラノファッションウィークでショーに出ます。
それまで、できる練習やるだけやります。
そして、帰ったら東コレリベンジできるようにまた強くなる。
私のような巨体だってなんでも着れると証明する。