理想的姿を歪ませるヴェロニカ・ゲンシツカの痕跡
国際写真祭「TOKYOGRAPHIE」の展示の中から、アニエスベー ギャラリー ブティックにてヴェロニカ・ゲンシツカの作品を見てきました。
シュールな世界観がビジュアルとして面白く、非常に興味を惹かれたのですが、作品に込められた意図を調べるうちに、1950-60年代のアメリカ像が見えてきました。
ヴェロニカ・ゲンシツカのメッセージと、アメリカの歴史に迫ります。
痕跡(Traces)シリーズとは?
ヴェロニカ・ゲンシツカの代表作、「痕跡(Traces)シリーズ」。
1950-60年代にかけてのアメリカの匿名アーカイブ写真に手を加え、現実を歪ませた作品シリーズである。
石像のような女性と話す男、足が長く伸びた子供など、超現実的でシュールなイメージが、我々を不死議な世界へと導く。
痕跡(Traces)シリーズが生まれたきっかけ
ヴェロニカ・ゲンシツカはワルシャワから2時間離れた、小さな場所にアトリエを構えている。
映画館やレストランもない刺激のない街では、インターネットでいろんなアーカイブ写真をサーチすることが彼女の楽しみだった。
世界中の日常的なアーカイブ写真やニュース画像を閲覧し、そこらアイデアを得た。
このシリーズでは、写真はどのように過去を操作するのか、過去から物事を知覚する方法と、これらの記憶が時間とともにどのように進化するのかに焦点を当てている。
歴史を現代と混ぜあわせ、再解釈されているのが面白いところだ。
50〜60年代当時のアメリカ社会
「痕跡(Traces)シリーズ」で使われているのは、“家族”や“カップル”といったキーワードで検索してヒットした1950-60年代にかけてのアメリカの匿名アーカイブ写真。
写真の中の人物は本物の家族なのか?それとも俳優やモデルが演じたものなのか?今となってはわからない。
当時の写真に写る完璧すぎる家族、カップル、幸福感は彼女から見てどこか奇妙に映った。
1950-60年代にかけてのアメリカは「アメリカン・ドリーム」の真っ只中。
第二次世界大戦を勝利したアメリカは大量消費時代に突入、国民が豊かとなり、ベビーブームなどますます繁栄した。
と同時に、人種差別や共産主義との対立、核の危機も渦巻き、キング牧師やジョン・F・ケネディ大統領の暗殺も起きた激動の時代でもあった。
ヴェロニカ・ゲンシツカは当時の画像から圧倒的な男女格差、女性蔑視的な表現を感じた。そこで自分自身で画像に手を加え再構成することにより、女性たちをパワフルに描き直している。
アメリカの当時の状況を詳しく知りたい方にはこの動画がおすすめ。
youtubeは情報が分かりやすい。
1950-60年代のアメリカ年表(オリジナル)
動画を見るのがめんどくさい方のために、1950-60年代のアメリカの年表を簡単に作成してみた。
華やかさと暗闇が交互に荒れ狂う、大きな波のような時代だったのだなと思える。
まとめ
我々には、幸福のお手本が用意されていて、それを理想として生きることを押し付けられているのかもしれない。
改めてストックフォトで家族と検索してみると、出てくるのは幸せそうな家族が映った写真たちだ。
これを素直に素敵!羨ましい!と思うか、違和感を感じるか…。
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