欲望の翼
脚の無い鳥がいるそうだ。
飛び続けて疲れたら風の中で眠り、一生に一度だけ地上に降りる。
熱帯雨林の薫る木々の残像。
昔見たこの映画は今でも匂付の風を纏う。
1分間の時間は、いつもどこかおかしい。そういう時ほど、エロさが漂い、あの気だるい雰囲気と距離感を思い出す。
シーン1
真っ赤なハット帽。
夕日の一歩手前、誰もいない草原の二つに別れた小道を歩く。
正面から自転車に乗った少年。
右側の小道を歩く。
右側に自転車が見える。
左側の小道にズレる。
左側に自転車もズレる。
顔をあげる。
目が合う。
真ん中に移動する。
目があったまま自転車も真ん中に移動する。
その視点距離ギリギリでクシャっと笑いながら彼は左側に去っていく。
シーン2
メトロの中。春から夏の間。
ドアの横、寄りかかりながら立って思いにふける。
気がついたら、一体どこから乗ってきたのか、目線の前に男の身体がある。
面と向かいあって、息が頭にかかる距離。
日本の満員電車とほど遠いこの異国の地で、ここだけ密度が高い。
賑やかな学生達の声。
ここだけ不思議と静かだ。あまりにも違和感がないので、嫌悪感ではない感情が支配する。
一駅の間だけ空気の密度を濃くして去っていった。
お互い、顔を見合すこともなく。覚えているのは、シャツの合間に見える胸からつるされたアクセサリー。
こういう事を突拍子もなくやるのは、脚のない鳥のような気がするのだ。
1960年4月16日3時1分前、君は僕といた。
この1分を忘れない。君とは“1分の友達”だ。