博士号取得のススメ
先日、真鍋淑郎氏がノーベル賞を受賞されました。
恥ずかしながら同氏が気球温暖化研究の第一人者の一人ということは、ノーベル賞の報道があるまで存じ上げませんでした。
日本人がノーベル賞を受賞したという、おめでたムードの報道が中心でしたが、真鍋氏が1958年には渡米してアメリカ国立気象局に入り、その後、プリンストン大学でも研究を行うという、アメリカの研究者であって、日本の研究者では無いということから、一部で日本の研究力低下について懸念する報道がなされています。
個人的に、真鍋氏が「周囲に同調して生きる能力がないからです」と記者会見で語ったことに加えて、1997年に一時帰国したものの2001年には再びアメリカに戻ってしまった。ということも合わせて考えると非常に由々しき問題であると思います。
日本では、若手研究者の生活が安定していないことによる、研究者が育ち難い環境であることに加えて、科研費の削減や実用性を重視するあまり基礎研究がおろそかになっている点などをテレビ等の報道で耳にしました。(基礎研究がおろそかになっている点に関しては日本だけの問題では無いとは思いますが)
「日本人の博士離れ」という様なワードをネットのニュースなどで目にすることが多いので、「博士号取得のススメ」を書いてみたいと思います。
何を隠そう、miyoshi自身は、博士(工学)の学位を持っていますので、その経験をベースに書いていきます。
前提
miyoshiは、博士(工学)の学位を取得しています。
社会人ドクターとして、某国立大学に通い、基本修了年限の三年で修了して学位を取得しました。また、研究職ではなく、一般企業の開発職に従事しています。
ですので、工学系の博士で、企業人という立場での、博士号を取得するメリットについてのお話をします。
博士号を取ると何が良いの?
博士号を取ると何が良いのか?
博士を名乗れる
バカみたいですみません。ですが、これが一番のメリットです。
研究職の応募資格に博士号取得者もしくは、それに相当する研究業績を持つ者とあった際に、博士号を持っていれば、相当する研究業績を持つかの審査を受ける必要はありません。(当然、研究業績は審査をされますが)
どこぞの研究会やカンファレンスに行った際、博士号の肩書を入れた名刺を出すことが出来ます。
当然、周囲は、博士だらけです。博士が当たり前なのです。博士じゃないからと言って石を投げられたりはしませんし、見下されることも無いでしょう。私も別に見下したりはしません。
でも、同じ様な審査を受けてそれを通過した人間だということは、分かるわけです。自分と同程度の審査をクリアするだけの研究実績を持つ人というのは、それだけで分かるというメリットがあります。
ここまでのことを要約すると、博士号を取るということは、一角の研究者になるためのスタートラインみたいなモノです。当然、博士号を持っていなくても素晴らしい研究者はいますが、持っていないよりは持っていたほうが良いです。
また、日本では、博士を名乗れるメリットは、そうないかも知れませんが、米国等では、博士を持っているということは非常に高いステータスらしいです。友人がアメリカの研究所に転任する際には、博士を持っていないというだけで部下に軽んじられたりする可能性を懸念して会社から博士号取得を勧められたということや、博士号を持っている若手が上司よりも待遇よく接待されたなんて話しを耳にしたことがあります。
博士論文が国立国会図書館に収蔵される
博士号を取得する際に必ず執筆する博士論文ですが、国立国会図書館に収蔵され保管・公開されます。自分の死後も自身の業績として残ります。誰にも見られない論文かも知れませんが、日本が存在してその制度を変えない限り確実に残ります。国が保管して残してくれる実績を達成するには最短でリーズナブルな方法だと思います。
博士課程を通しての学びが計り知れない
博士課程は、お勉強ではありません。研究です。一定以上の新規性を持つ独自の研究でなければなりません。また、修士までと異なり、学内で閉じて独自の審査をするというわけではありません。
審査の基準は、大学院ごとに異なり公開されていない事が多いですが、一般的に査読のある論文誌や国際学会に2〜3本の論文を通す必要があり、一定の英語力があることを示す証左が必要になります。加えて学外の審査員を必須としている大学院や一般に広く告知して研究発表を行う公聴会(博士論文審査会)を行う必要があるなど多くの条件があります。
これらを全てクリアして、尚且、指導教員が納得する新規性と説得力を持った博士論文を書く必要があります。これを3年ないし5年という期間で達成するのです。この間の大変さ、というか、追い詰められ具合は、筆舌に尽くしがたいものがあります。(私の場合、社会人ドクターなので仕事と平行というのは、本当に大変でしたが、余裕がない分、必死になれたというメリットがありました)
また、大学の先生という生き物(⇐失礼)は、大半が何時寝ているのか分からない研究モンスターみたいな人が多いので、夜中の何時になってもメールの返信が返ってくる。締め切りの直前になって純粋な瞳で研究の根底を覆す様な質問をしてくる。と言った悪気の無い攻撃を繰り出してくるので、追い詰められ具合に拍車がかかります。
と、愚痴の様になってしまったのですが、これらをクリアするのは努力だけでは無理です。キチンと研究の計画を立て、ダメだった場合のBackUpブランを用意して進める必要があります。また、この研究の何が新規性なのか、この研究を通して何を世の中に訴えたいのか、この研究がその分野の何に貢献できるのか、と言ったことを真剣に考える必要があります。また、審査に必要な条件を満たすための計画や論文の書き方と言ったテクニックも要求されます。また、私の場合は、英語が苦手な方でしたので、海外の先生方とのワークショップや国際会議、英論文のサーベイなどは非常に苦労しました(今も苦労していますし、オンライン英会話などを受講したりしています)
3年〜5年という短くは無いけれど、あっという間に過ぎてしまうこの期間に集中して研究について突き詰めるという経験は、自分を大きく成長させ自信に繋がります。そして、同時に自分の足りない点にも気付かされます。
余談
以上が、博士号を取ることの大きな3つのメリットです。ここからは、些末ですが私自信実感している細かなメリットを書いておきます。
身内(特に子供)に自慢出来る
名乗れるに近いですが、もっと俗な話しで自慢できます。特に小学校低学年の男子に博士というワードは効き目抜群です。
英語の敬称でDrを選べる
飛行機や海外のホテル、細かなところでは学会の受付やシステムの登録なんかで、Drの敬称が使えます。ただの優越感です。ただ、海外(米国)では、Drであることを証明できれば、それだけでちょっぴり相手の態度が変わったりします。
給料が上がった
これは本当に私だけのケースですが、少しだけ給料が上がりました。優秀な人材の流出に危機感がある会社であれば、自分が有能であることを示す事ができれば、自ずと給料は上がると思います。それが、普段の業務だけでなく技術的な講演などで会社のPRの材料にもできるとなれば多少の優遇はされて然るべきと考えます。(当然、成果を示し続けることが前提ですが)
また、当然ながら博士採用枠を設けている会社であれば、新卒の初任給も学士や修士に比べて高いのは当然です。日本の給与制度では、一定の年次までは給料が上がり難いことが多いので、初任給数万円の差は大きいです。
他社からの転職のオファーが増えた
若干ではありますが、転職のオファーが増えました。私は以前から多少カンファレンスなどで露出があったので、有名なカンファレンスで講演した時ほどのインパクトは無かったのですが、研究テーマも踏まえたちゃんとしたオファーが増えました。また、知人からダイレクトなオファーがあったりもします。今は一切転職は考えていないので、いずれもお断りしていますが、自分の市場価値が高まったことで、いざという時もなんとかなるだろうという安心感に繋がっています。
番外編
多くの方がご存知無いかと思いますが、博士号を持っていると国会議員政策担当秘書に無試験でなれます。平成30年5月以降の修了証明書が必要だそうです。私は、そっち方面全く興味ないですし、周囲にもそんな知り合いはいないので、この制度で政策担当秘書になったとか、さらにそこから国会議員になりましたって人が、奇跡的に読んでいたらコメント下さい。
以上、ススメになっていたか分かりませんが、miyoshi的、博士号取得のススメでした。
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