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名もなき小さい君へ(たまに見かけるジャックラッセルテリア君に捧ぐ)

通勤する途中、滝のように背中を流れる汗を感じながらバスを待っていると、たまに見かけるワンコが通りかかった。

私が夫の実家で一番仲良しだったジャックラッセルテリアと同じ犬種。

私の友達のクリスがよく訓練されていたのと違って、その子は、ギャンギャン鳴くわ、歯をむき出しにするわ、飼い主のオジサンが行きたい方向と逆に行こうとリードを引っ張りまくるわ、まあまあ厄介そうな犬だった。

すごい形相で吠えるので、「クリスのほうが可愛いわ」なんて感じていた。

オジサンもなんだか可愛がってるんだか、迷惑してるんだか、謎な表情で、その子をいつも散歩させていた。

数年前までは。。。

今朝久しぶりに見たその子は、毛の茶色の部分も白くなり、恐ろしく遅くポテポテと、まっすぐに歩いていた。

リードを引っ張ることも、歯をむき出しにすることもしない。

暑さでグロッキーになっていたのかもしれないが、ジャックラッセルテリアは暑さには比較的強いはずだ。(寒さには滅法弱いのだが)

前に、前に、ゆっくり、ゆっくり、歩いていく。

いつも振り回されていたオジサンは、その子の歩く速度を合わせて、背中を見つめながら、ゆっくり、ゆっくり、一緒に歩いている。

東京の炎天下では気が遠くなりそうな速度だ。

そのオジサンの歩き方に優しさと愛を感じた。

二人は陽射しの中、ゆっくり、ゆっくり、歩いていった。

わからなかったけど、オジサンはこの子を毎日可愛がっていたんだなあ。

名も知らないワンコよ、良かったね。
君は愛されているぞ。
私もクリスに会いたくなったぞ。

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