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声も届かない この場所で

私にとって、LINEの優先順位は驚くほど低い。
スマホで出来ることの中で数えても下から数えた方が早いし、一日の生活の中で数えてもやはり下から数えた方が早い。
これを書いている今現在も友人からLINEが入ってきたが、無論後回しだ。

これは凄く良くないことだとは思う。レスポンスの早さというのは信用にも繋がるし、早い分多くやり取りも出来る。
それはわかっているのだが、やはり返信をする気になれない。断じて送ってきている相手が問題なのではない。私の怠慢が問題なだけだ(と思っていた)。

ただ断っておきたいのは、仕事に関することやその日の予定の話題、緊急を要するLINEであればそれは気付いたらすぐに返すようにしている。iPhoneというのは便利なもので、ラインを既読をつけずとも読むことが可能なのだ。これは私のようなものには凄くありがたい。

だがやはりこれは凄く良くないことだとは思う。既読をつけずに自分の中では読んだことになり、そのうち返そうと思って放置したら最後、気付いたら二,三日経ってしまっていることもよくある。
これが気の知れた友人であればまた別の話題にしてLINEを再開するのだが、まだ知り合って間もない人や異性とLINEをしている時にこれがあると困る(困るだなんてどの口が言っているのだろう)。

既読していない状態が三日続いてしまうと、今更三日前の話題に対して返信するのは甚だおかしい。だからといって何事もなかったかのように別の話題を振るのも勇気がいる。だってどうせそれも続かないのだ。
一度であれば、「返した気でいた」とか「俺が返してなかったのか」とかおちゃらければなんとかなる。しかしそれは二度も使えない。こいつは馬鹿なのかと思われるだけだ。まぁある意味馬鹿なのだが。

何に一番悩んでるって、好意を抱いている相手にもこの有様なのだ。これで何度好機を逃してきたことか(これだけが原因なのではない)。
これは良くない。レスポンスは早い方がいい。遅いと印象が悪い。全部わかっている。その上で、遅いのだ。友人だから、仕事じゃないから。そんなことを言っていると、そのうち気の知れた友人にまで愛想を尽かされそうだ。

それでも私は恐らく、このスタンスを変えることは出来ないだろう。希望としては、LINEなどと言うものは、予定を立てて日時場所を指定共有するだけのために使いたい。会って、顔を合わせて話したいのだ。

と、こんな話を先日、知り合ったばかりの女性にした(友人の友人だった)。
酔っ払っていたのだ。
すると彼女にこう言われた。

「会えない時でも関わりたいと思える人に出会ったことがないのかもしれないね。」

今まで気付かなかったが、どうやら私は酷く冷たい人間のようだ(気付かないフリをしていたのかもしれない)。
確かにな。思わずそう溢すと、

「私と文通してみない?」

と素っ頓狂なことを彼女は言った。一瞬、彼女と女優の森七菜が重なった。
どういうことかと問うと、彼女は真っ直ぐ私の目を見てこう言った(私の記憶ではこんな感じ)。

「出会ったことないってのは嘘。君は、そんなに冷たい人間じゃない。今日会ったばかりだけど確かにそう思う。会って話したいってのは本音だと思うけど、それが難しいときの話ね。多分、LINEだと送られてきたらすぐに読めてすぐに返せちゃうから、それが当たり前になってるこの環境が嫌なのかもしれない。手紙なら、送ってもすぐに返ってこないし、一週間くらい遅れたってそこまで違和感はないでしょ。」

今日出会ったばかりの人に何がわかるのか、なんて微塵も思わなかった。明らかに彼女の言葉は的を射ていた。
私は多分、そういうことだ。
ただ、彼女はこんなことに付き合ってなんのメリットがあるのだろう。

「気にしないで。私、『ラストレター』観てから文通に興味あったんだよね。」

聞いてもないのに気を遣ってそう述べた彼女は、やはり森七菜に通ずるものを感じた。

その日から、今日は約一週間後。私が彼女に初めての手紙を送ったのが五日前だ。
そして今日、先ほど彼女から手紙が届いた。まだ開いていない。
ただ言えることは、とても待ち焦がれていた。まだあまり知らない異性からの手紙。私の汚い字、だけれど必死に書いた手紙に対して、どのようなことが綴られているのか。
これからその手紙を読むのだが、この話の続きは多分ここには書かない。
この文章は、ただこの手紙を開く前の高揚感を何処にぶつけようかと思い、その熱量のままに書き殴っただけなのだから。



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