僕のご主人
「ジョン、行ってきます!」
ユミちゃんは毎朝こうやって僕に挨拶をして学校に出掛ける。
僕にとってユミちゃんは大切なご主人様であり相棒。
同じ家にお父さんやお母さんも暮らしてるけど、僕に構ってくれるのはもっぱらユミちゃんだ。
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初めてユミちゃんと出会ったのは半年前。
お父さんと一緒にお店にやってきたユミちゃんは、僕を一目見るなり「可愛いっ!」とはしゃぎ、店員さんを呼んで僕を大事に大事に抱っこした。
「ねえお父さん、あたし決めた。この子にする」
「もう決めたのか。もっとじっくり他を見たほうがいいんじゃないか?ほらあの少し小さいのとか……」
「ううん、いいの。なんかビビっときたから絶対この子じゃなきゃ嫌。だってこんなに可愛いもの」
このとき僕は、なんでこんなに可愛いと言ってくれるのか心底不思議でならなかった。
僕は体も大きいし、色も黒いし、声も低い。
お父さんが指した先には僕より小柄で色の白い、いかにも可愛いやつだっているのに。
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今でもユミちゃんは毎日「ジョンは可愛いねえ」と言いながら撫でてくれるし、たまにユミちゃんの友達が遊びにくると僕を撫でながら「ジョンは世界一可愛いから」と自慢げに言い、笑われることもある。
僕は自分を可愛いと思ったことはないけど、こうやってユミちゃんが可愛がってくれるのがとっても嬉しくて、そんなときは張り切って鳴いてしまう。
ちょっとうるさくしちゃったかなと不安になっても、ユミちゃんが楽しそうだから僕も一緒になって楽しくなるし、そうすると友達も楽しそうになる。
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「ジョン、今日は一緒に学校行くよ」
土曜日なのに制服に着替えたユミちゃんはそう言うと、いそいそと僕が出掛けられるように準備をし、よっこらせと抱き上げた。
何をしに学校へ行くのかわからないけど、ユミちゃんがわくわくした顔をしてるからきっと楽しいことが待ってるんだろう。
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「いやーこの間遊びに行ったらドヤ顔でベース弾いてくるからびっくりしたわ」
「文化祭でバンドやりたくて買ってもらっちゃった。だからさ、軽音部に混ぜてくれない?ほら今日持ってきたし」
そう、僕はユミちゃんの相棒であるジャズベース。
文化祭ってやつが僕とユミちゃんの初ステージになるんだ。