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【AI文学】慟哭
かつてこの海は、俺たちの命だった。
父も祖父も、そのまた父も、ここで魚を獲り、家族を養った。
潮の満ち引きを読み、波を見つめ、生きてきた。
だが、あの日――すべてが飲み込まれた。
地が揺れた。
揺れはただの序章だった。
最初は、戸がガタつき、茶碗が音を立てる程度だった。
だが、次の瞬間、家全体が悲鳴をあげるように軋み、
地の底から響くような衝撃が、俺たちの町を襲った。
古い家々は無惨に崩れ、
積み上げた堤防も、ひび割れた道路も、
まるで紙細工のように潰れていった。
すぐに津波の警報が鳴り響いた。
俺たちは知っていた――この地で生きる者なら誰もが。
「揺れの後には、必ず来る」
逃げる時間はない。
海の方を見るまでもなかった。
あの波が、すべてを押し流していった。
だが、それで終わりじゃなかった。
あちこちで火の手が上がった。
倒れた家の中から聞こえる助けを求める声。
ひび割れたガス管が火を呼び、
真っ黒な煙が、瓦礫の隙間から天に向かって昇る。
火は容赦なく広がり、
逃げ場を求める人々は、炎の向こうへと消えていった。
都は静かだった。
震えもしなかった。
テレビの中で、アナウンサーが淡々と数字を読み上げる。
「最大震度7」「津波警報」「広域火災の危険性」
言葉だけが、俺たちの惨状を説明していた。
都の人々は、揺れることもなかった町で、
普通の一日を過ごしていた。
「どこで地震?」「大変だね」
ニュースを眺め、しばらくすると、また日常へ戻っていく。
だが、俺たちの日常はもう戻らなかった。
水が足りない。
食料も届かない。
道は崩れ、車は動かず、
助けはこない。
「中央に連絡は?」
「回線が死んでる」
「自衛隊は?」
「どこにいるかわからない」
「救助は?」
「都の方が先だそうだ」
そうして俺たちは、ただ生き延びるために、
焼け跡の隅で雨水を集め、
瓦礫の中から食べられるものを探した。
もう何日経ったかわからない。
夜になると、あたりは静かすぎて怖くなる。
海の音だけが、まるで俺たちをあざ笑うかのように響く。
「なぜ、俺たちは見捨てられた?」
都の人々にとって、ここは地図の端にある名もなき町だ。
俺たちの声は、あのビルの隙間をすり抜け、
都の空には届かない。
だけど、俺たちはここにいる。
潮の香りを嗅ぎ、焼け跡の中を歩き、
生きるために。
誰かが言った。
「また海に出よう」
そうだ、どんなに打ちのめされても、
俺たちには海しかない。
けれど、あの黒い波と炎が焼き付いた瞳は、
まだ海を信じることができない。
それでも――
俺たちはここにいる。
潮騒と共に、
忘れ去られるその日まで。