みどり色のかまぼこ。
最後というのは、自覚できない。
卒業式以来あってない同級生が、何人いるだろうか。
飛んだバイト。最後に勤務した日は普段通りサボってた。
飼ってた犬が急に死んだ。最後に散歩した日はいつだったろう。
もし、今日死んだら。
最後に新聞を読んだ日も、
最後に揚げ豆腐を食べた日も、
最後に東武東上線に乗った日も、
僕は思い出せない。
花王株式会社の「メリット」の広告を最近目にした。
"最終回は気づかないうちに終わっていく。
「今日からシャンプー自分でやる」
と子供が言う。
わたしは「いいよ」と言った。
(そっか)
昨日のが最後のお手伝いだったんだ。
二度と戻れない瞬間がそうとは言わずに過ぎていく。
と思うと、
この大変な日々に丁寧な気持ちを感じる。
流れていく泡。
初めてにしてはいい仕上がり。
「髪ふくね」
できることがまだ少しある。"
先日まで映画の撮影をしていた。
ある日、ロケバスに乗っていて。
首都高から見える工業地帯に、みどり色のかまぼこみたいな建物が並んでいた。
「なんだこれは」と思った。
2日目、ふと窓の外を見ると、ちょうどみどりのかまぼこが見えた。
運命を感じて。嬉しくなって。
3日目は首都高に入ったときから、そわそわして外を眺めていた。
4日目、最終日。
かまぼこを見た。涙が出た。
俺は、このかまぼこをただ物珍しいと眺めていたわけじゃない。
仕事に向かう─緊張、不安、楽しみ、高揚。
ないまぜになった心。
ふと現れたみどりのかまぼこに、俺の興味はちょっと移った。
外の景色を見るきっかけをもらった。
鈍色の雲。走るトラック。
遠くに見えるスカイツリー。
スマホを見てるだけじゃ気付けない。
朝が始まり、生きていく。
だから、最終日。
俺はもうこのかまぼこを見ることがないのかもしれないと思うと、感傷的な気分になった。
最後というのは、自覚できない。
人生は、最後の出会いに溢れている。
だから、なるべく。
最後を自覚して生きていきたい。
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