原体験
小学校1年生の時に、木造平屋建ての実家が建った。
工事中のことで、断片的に覚えていることがある。
「建て前」の時に、ファンタを飲ませてもらったこと。
(普段は炭酸飲料は飲ませてもらえなかった)
そして、父が工事中の現場を見せてくれた時のことだ。
設計したのは父で、おそらく現場にも頻繁に足を運んでいたのだろう。
子ども部屋の壁にプリント合板が貼ってあって、緑色のピンのようなもので留めてあった。
その緑色のピンを父が抜いて歩いていた。
「やってみるか?」と言われて僕も抜いた。
そして、なぜ緑のピンを抜くのかも教えてもらった。
接着剤が乾くまで、仮に留めてあるものだから、時間が経ったら抜くのだということだった。
建築の工事現場を「体験」したのは、それが最初だった。
それから、高校の時には材木を運ぶバイトで現場に行ったし、大学の時は電気工事のバイトで現場に行った。
大学を出てからは、現場監督をした。
今も建築設計をしていて、監理のために現場に行く。
さすがに設計監理者の立場で、現場作業をすることはまずないが…
つまり工事現場の体験は豊富なはずなのだが、その原体験から40年以上経って、初めてその機会が訪れた。
sofo cafeのクラウドファンディングの返礼の中に、スポンサー枠があった。
店のどこかに、木製のタイルのようなものに、寄付してくれた人の名前や企業のロゴなどをレーザー印字して、貼るというものだ。
近くに小型のレーザー加工機を持っている会社があるので、そちらに発注して作ることにした。
薄い杉と、シナの板を壁に貼ることになったが、どのように留めるか考えて思い出したのが、緑色のピンだった。
下地の合板に、木工用ボンドで貼り付けることにしたのだ。
ホームセンターで探すと、確かにそれだと思われるものがあった。
商品名としては「カリ止釘」というものだった。
名前の通りピンというよりは、細い釘と言ったほうがいいかもしれない。
その細い釘の頭のほうに、円筒状の緑色のゴムのようなものがついている。
記憶にある通りだ。
ただし、緑色というのは釘の太さを表しているようで、他の色のものもあった。
約90㎜角の薄い木の板の裏に、木工用ボンドを塗って、カリ止釘で留めた。
スポンサーのロゴや名前が彫られたものと、無地のものを含めて、162枚を2か所ずつ。
精度はともかくとして、思った以上に早く、半日ほどで貼り終わった。
明日には、あの時、父がやっていたようにカリ止釘を抜く作業が待っている。
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