パワーストーンと駄菓子
僕の会社は釜石大観音仲見世通りで、コワーキングスペースを経営している。
元はお土産屋だった建物をリノベーションして、コワーキングスペースにしたのだけど、道路に面する部分だけ、空きスペースにして残した。
仲見世通りを、以前のように観光スポットとして復活させることが目的だったので、その部分は商店にしたかったのだ。
ではなぜ、コワーキングにしたかというと、自分でも運営可能だと思ったことと、人が集まるところを作れば、商店も出店しやすくなると思ったからである。
しかし、コワーキングを始めて5年以上たったが、まだ商店にはなっていない。
時々、ポップアップショップや、マルシェの際の出店スペース、イベント、展覧会などが行われるフリースペースとなっている。
稼働率は低い。
そんな中、昨年末、起業を目指す旧知の女性から、1か月間のポップアップショップをしたいと相談があった。
具体的には1人ではなく、複数人の起業や小商いをしたい人を集め、交代で出店をするというプロジェクトだった。
出店者、あるいは出品者は、全て女性で、これまで自分で作った商品をマルシェに出店したり、ネットで販売したりしていた人たちだ。
そのほか、アロマハンドマッサージや、整体、ワークショップなども開催される。
全員ではないが、子育て中の母親が多い。
商品は、駄菓子、手作りのカバン、手編みの雑貨、羊毛フェルトやレジンで作ったグッズ、ボールペンで描いた絵画、押し入れに眠っていた陶器や漆器、手作りのアクセサリーなど。
さらに本物の宝石を使ったジュエリーもあり、出店者の温度感も、商品の値段もバラバラである。
主導したのは、駄菓子屋を運営していたAさん。
Aさんが誘ったのは、釜石市が行っていた起業塾や、職業訓練校で知り合った人たち、また、もともと仲が良かったママ友などである。
僕がAさんと出会ったのは9年前で、ある小さな劇団の立ち上げメンバーとして顔を合わせた。
僕は今も劇団に所属しているが、Aさんはすでに退団している。
Aさんは、脚本、演出、美術などを行っていたが、一時はそれに加えて、事務的な仕事や広報なども担当していた。
退団した理由は、はっきりしないのだけど、僕は「疲れた」のではないかと推測している。
やると決まれば、手抜きをしない性格と、人にものを頼めないお人好しな性格により、つい頑張りすぎてしまう人なのである。
今回もその点は心配した。
聞くと出品するだけの人からは、委託料や、出店料などはもらわないという(つまりボランティアである)。
さらに、他の出店者の商品も、少しでも売り上げがあがるようにと、自ら買ったりしているようだった。
自分は一番単価が安い駄菓子屋だから、売り上げで買えるとは思えない。
なんと、エメラルドなどの宝石を使った、ジュエリーも買っていた。
正直なところ、そのジュエリーの店は、商品が高額なためになかなか売れないようなので、僕も(妻へのプレゼントに)買ってあげようか迷っていたところだったが、財布事情が厳しかったので、結局買えなかった。
また駄菓子や玩具の単価の決め方を見ても、どうもサービス満点で、利益が少なそうだった。
うちのコワーキングスペースにも入会するというので、さすがにそれは止めた。
12月いっぱいでポップアップの企画は無事に終わったのだけど、彼女自身は年始の1日から3日まで延長戦をすることになった。
釜石大観音は年末は人出が少ないが、年始の初詣には、一年で一番の人出があるのだ。
この時ばかりは、仲見世もけっこう人通りがある。
それとは別に、以前、年始だけポップアップ出店したことがある、となり町の女性が、パワーストーンアクセサリーを、今年も販売することになっていた。
かくして、コワーキングの空きスペースは、年始には駄菓子屋半分、パワーストーンアクセサリー半分で店を開けることになった。
前述したように、Aさんはあらゆることを自分を勘定に入れない「雨ニモ負ケズ」を地で行くような人である(ちなみに宮沢賢治は岩手出身で釜石にも親戚がいる)。
彼女がチョークで描いた客引き看板の文字には「パワーストーンとだがし」と書いてあった。
上がパワーストーン、下がだがしである。
1月1日は盛況で、一時は外で待っている人がいるほどであった。
2日になると、だいぶ人は減る。
パワーストーンを販売しているMさん(女性)が、客足が途絶えた時に、Aさんの駄菓子屋で販売している「うんち棒」を買って、外に出た。
何をするのかと思ったら、うんち棒を振りながら、歩いている観光客に「駄菓子売ってますー」と客引きを始めたのだ。
これには、感動してしまった。
そう、釜石の人はこのように、とてもお人好しなのである。
お金を稼ぐのも、自己主張するのも、あまり好まないのである。
思い出してみれば、僕ももともとそういう土地柄や人柄を知って、移住したくなったのであった。
仲見世通りの商店街を再生するために、外部から出店者を呼びよせることを考えていて、実は失敗したと思うこともあった。
都会の人の中には、地方に眠っている宝や、国から配布される地方交付金を独り占めしようとする人がいる。
彼らは人よりも少しでも多くの金を稼いで、さらにメディアなどを通じて注目されようと、あの手この手を尽くす。
確かにそれはそれで、すごい野心だと思うが、釜石にはこういう人はなじまない。
釜石大観音仲見世通りの商店街では、AさんやMさんのような人が搾取されることなく、お互い助け合いながら商いができるコミュニティを作っていきたいと、考えを新たにした。