オンラインはブレンド米
めったに映画館で映画を見ないのだけど、数年に1回ぐらい一人で見に行くことがある。
当時、ネットで話題になっていた「カメラを止めるな」は、その一つだ。
名古屋に用事があって行った帰りに、ふと思いついて名古屋駅前のミッドランドスクエアで見た。
そのカメラを止めるなのキャストが、新型コロナウィルスに関わる緊急事態宣言のさなか、ショートムービーを作った。
感染拡大を防止するため、一度もスタッフや役者が会わずに、個々が撮影したものをつなぎ合わせて作るという。
そのころ僕の所属する、釜石の小さな劇団が、3月に予定していた公演を延期し、5月連休にしようかと話していたが、緊急事態宣言が出て、むしろ5月連休のほうが難しいということになり、中止の方向に流れていた。
そこで、カメラを止めるなと同じように、オンラインで作品を作れないかと考えはじめ、ストーリーを出し合っていたところだった(今に至るまで実現はしていないが…)。
カメラを止めるなは、役者もほとんど知らない人だったし、セットなどから見ても、おそらく低予算で作られた映画でありながら、思いもよらない構成と展開で、話題になったのもうなづける面白い映画だった。
ショートムービーのほうも、さぞ面白いだろうと思って見てみると、期待が高すぎたせいかもしれないが、意外にあっさりした印象だった。
だから残念だったということではないのだけど、オンラインで作るものは、オンラインで作ったものでしかないということを改めて感じてしまった。
僕らの劇団の公演も、オンライン配信しようかという話もあったが、やはり間近でリアルタイムで見るのが演劇だからと、団長はあまり乗り気でなく、立ち消えになった。
そういう意味では、正しい判断だったのかもしれない。
外出自粛の呼びかけが始まってから、地方と東京の温度差はあると思うが、一般人のみならず、芸能人や有名人もオンライン○○をするようになった。
前述のオンライン映画や、オンライン対談、オンライン合唱、オンラインダンス、オンラインセッション(音楽の)など。
最初は物珍しく、新しい時代の幕開けのように感じたが、だんだん「やっぱり、従来のもののほうがいいな」と思うようになってきた。
僕自身も、Zoomでオンライン会議や、オンライン飲み会をやってみたが、やっぱり顔を会わせて会議や飲み会をしたほうがいい。
NHKの番組で、Zoomで対談するものもあったが、Zoom会議をリアルにやっているのに、家でまた同じ画面を見るのも、なんとなくもう十分という感じで、すぐに消してしまった。
確かにZoomは便利なツールで、新型コロナ流行の以前も使ってはいた。
でも、あくまでも場所と時間が合わせられない場合の代用だったし、会議にせよ、飲み会にせよ対面でするほど充実しないという肌感覚があった。
話は別の方面に飛ぶが、同じく最近、さかんに行われているものとして、飲食店のテイクアウトがある。
新型コロナの感染防止対策として呼びかけられている「人と会わない」や「三密をさける」ことを実践すると、飲食店での食事は出来なくなる。
当然、飲食店の側は経営が成り立たなくなり、休業を余儀なくされるのだけど、家賃などの固定費は休業しても払わなければならないし、人件費もゼロというわけにはいかない。
そこで多くの飲食店で、やむなくであろうがテイクアウトの商品を提供するようになった。
こちらも確かに物珍しいので、1度や2度はやってみようと思う。
しかし、すぐにテイクアウトは、店内で食事をすることの魅力には及ばないことに気がつく。
店内での食事には店の雰囲気を楽しむ要素があるし、接客サービスがある。
気分が変わって、家より会話がはずむということもあるかもしれない。
座って注文しただけで料理が出てくるし、片付けもしなくていい(セルフサービスの店でなければ)。
テイクアウトだと、多少なりとも包装を捨てたりするという手間は増える。
一方、むしろそれが魅力というものも、あるにはある。
それはドライブスルーだ。
マクドナルドが4月の半ばからイートインの営業をストップしているが、実は4月は去年より売り上げが伸びているという。
僕の地元鈴鹿では、マクドナルドのドライブスルーが平時よりあきらかに多く、車が並んでいるのを見た。
ドライブスルーはテイクアウトの方法として、実はイートインよりも魅力がある。
それは、車から降りなくていいという点だ。
新型コロナの流行中においては、それに安全という点が加わる。
店の雰囲気は楽しめないが、もともとセルフサービスなので、持ってきてもらえたり、片付けてもらえることはないので、手間はさほど変わらない。
つまり、マイナスの要素が、普通の飲食店より少なく、人によってはプラスのほうが勝ると感じるのだろう。
例えば小さい子どもがいる家族なら、ベビーカーを出したりする手間が省けたりもする。
地方にはないが、都会にはあるものの選択肢として、ウーバーイーツという宅配サービスがあるらしいが、こちらは地方在住の悲しさで使ったことがない。
ただコロナ流行以前から、かなり普及しているものであったようなので、コロナではずみはついたかもしれないが、元々、普及するだけのポテンシャルがあったのではないかと思う。
普通に考えて、従来、宅配でなかった飲食店の料理を、アプリ注文で自宅に届けてもらえるのは、魅力であろうと想像はつく。
こういった視点で、もう一つ、リモートワークについても考えてみたい。
この場合のリモートワークとは、在宅ワークのことだ。
リモートワークが始まったばかりのころは、目新しさがあったようで、ツイッターでも肯定的な意見が見られた。
出勤の時間が節約できて、家事なども効率的に出来るし、ゆっくりする時間もできる。
しかし、それが10日も続くと、弊害が見えてくる。
よく言われるのは、生活にメリハリがなくなることだろう。
服を着替えなかったり、時間にもルーズになったりする。
平日と休日の境目もあいまいになる。
帰りに飲みに行ったりという息抜きもできず、人と顔を会わせて話すこともないので、知らない間にストレスが溜まっていってしまう。
僕もそうなのだけど、ものの本によると男性は、家の中と、家の外では、思考回路や性格が切り替わる。
例えば、家では無口だが、外ではよくしゃべるとか、その反対という人もいるだろう。
この切替えが出来ないとなると、メンタル面のバランスが取れなくなる人もいるのではないだろうか。
規則正しくメリハリのある生活、外を歩いたり、乗り物に乗って移動することによる変化、人と会って会話することなどが、全ての人にとは言わないが、多くの人にとっては重要なことなのだ。
また物理的な面からいうと、印鑑を押しにわざわざオフィスに行くサラリーマンがいることが、批判の対象になったりもしたが、そうはいっても印鑑はまだまだビジネスの場面で重要な役割を持っている。
契約においては、それを押すことが、一種の神事というか、セレモニーになっているという側面もある。
印鑑だけではない。印刷をしようにも家ではできないし、会社にある過去の紙資料や、紙の文献を見る必要があったりもするだろう。
さて、アフターコロナを考える時、以上の3つの要素は、果たして世の中を変えるだろうか。
僕はいずれも、従来出来ていたことの代用でしかないと思うのだ。
オンラインやリモートで作った動画、音楽、対談番組なども、出来ることは出来るが、そのために整えられた場所に行って、人と人とが直接会って、一緒に作るものには及ばない。
テイクアウトの食事は、家で作るより楽ではあるが、飲食店の上げ膳据え膳には及ばない。
働き方としても、パソコンを使った仕事なら家でも出来るのは事実だが、必要な資料、事務機、事務用品がなどが揃った機能性の高いオフィス空間でするより、能率や質が落ちる可能性がある。
また、通勤することがメンタルの面でも、健全な状態を保てるように思われる。
いずれも本質的に劣っているわけではないのだが、今のような使い方だと代用でしかないのだ。
これに似たものを、ふと思いついた。
僕が大学生の時だったから、今から27,8年前だったと思うが、日本の米が凶作で足りなくなった。
そこで政府がとった対策は、タイから米を輸入するということだった。
しかし、国民にいきなり、なじみのなかった長細い米(インディカ米)を食べろと言うのは酷だろうと思ったのか、日本米と混ぜる「ブレンド米」にすることが義務付けられた。
一定の期間は、家でも店でもブレンドでない日本米を食べることができなくなった。
ブレンド米ははっきり言って不味く、多少食べなれはしても、決して美味しいとは思わなかった。
そのため、タイ米(=インディカ米)はまずいというイメージが長く残った。
ところが、インディカ米も、その国の料理として食べるとおいしいことが、だいぶ後になってわかった。
例えば、シンガポール名物のチキンライスを食べ、そのおいしさが忘れられず、日本で提供されているものを食べたら、日本米でがっかりしたということもあった。
本質的にまずいわけではなくて、代用だったからいけなかったのだ。
Zoomの画面に食傷気味になっている今の状況と、家でも飲食店でもブレンド米しか食べられなかったあの時の心境と、どこか似ていると思う。
アフターコロナの社会を、いろいろな人が予想しているが、ブレンド米が決して定着しなかったように、オンラインやリモートワークなども、コロナ時代の悪い記憶として残り、むしろ、利用が後退する可能性もあるのではないだろうか。
もし、それらが世の中を変えるとしたら、代用でなく、そのもの(またはそのこと)の特性を生かした使い方でないと、定着はしないだろうと思う。
(※トップ画はインディカ米(バスマティライス)を使った、sofo cafeのルーロー飯でした!)
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