しおひがり棟の軌跡⑥ 残材を使う
歩留りという言葉は、建築でも使われる。
例えば1枚の合板(ベニヤ)を壁に貼る場合、まるごと使える箇所もあるが、端部では切らなければいけないものである。
問題は切り落とした端材の量だ。
20cm切り落とすか、30㎝切り落とすか。
切り落とした材も、他の部分で使える可能性もある。
細かくなるほど使い道がなくなるが、いびつな形のものも使えない可能性が高い。
例えば長方形のベニヤから一回り小さい長方形を切り抜くと、L型の端材が残るが、こういうものは他では使いづらい。
仕入れた材料から端材を引いて、実際に使用した材料の割合を歩留りという。
経済的にも、資源の有効利用の観点からも、歩留りは大きいほうが望ましい。
ただ、歩留りには美観との綱引きがある。
例えば、床フローリングの張り方で、ヘリングボーンという張り方があるが、長方形の部屋に対して、45度の角度で床材を張るので、歩留りは悪くなる。
その代わり、見た目は豪華なものとなる。
しおひがり棟の工事では、少しでも歩留りをよくするために、普通プロなら使わないような端材もなるべく使うようにした。
また、解体した残材も、積極的に使うことを試みた。
その他、co-ba kamaishi marudaiやあずま家のDIYで残った建材、塗料などもその場の思い付きで使ったりもしている。
いずれも、通常の設計監理の案件では、そのようなことはシステム的に難しい。
図面には最初から、細かいところまで指定が及んでおり、工事業者の見積もりも計測可能な範囲で行われる。
すなわち、全て新しい材料を見込まざるを得ない。
もちろん、ある程度の融通は効かなくはないのだが、そもそも細部が決まっておらず、作りながら考えるスタイルのDIYほど自由ではない。
また、今回の場合、設計者であり、施工者でもある僕が、オーナーでもあるため全体的に仕上がりに大らかであることと(自分にクレームを言っても、自分に返ってくるだけなので)、入居者のS氏も一緒にDIY作業してるので、その場で決められるという特殊性もあった。
僕「このペンキが余ってるから、ドアに塗っちゃっていいですかね」
S氏「ああ、いいんじゃないですか」
という調子である。
2階の入り口ドアに塗ったペンキは、あずま家のオーナーが「残ってたから使いますか?」と持ってきてくれたものだ。
また、その前の床の三角の部分には、トイレの床に大工が貼ったクッションフロアの残りが、現場に落ちていたものを、つぎはぎにして貼っている。
三角形はヘリングボーンの例のごとく、歩留りが悪いのだが、4,5枚つなぎあわせて、なんとか間に合わせた。
もっとも多く使った資材は、床に張ったカフェ板だ。
ホームセンターで販売されている。
1階と2階合わせて、2m×200㎜幅のカフェ板を約160枚使用した。
本当は4mの材料のほうが無駄が少なく使えるのだが、運搬の関係で2mにせざるを得なかった。
そのせいで端材が多かったのも事実だが、厚みも30㎜あるのでかなりのボリュームだった。
そこで、床以外の造作や、家具などに利用することにした。
1階の床框は、本来であれば長いものを1枚か、2枚でおさめるのが普通だと思うが、600㎜ぐらいの余った材料を使うことにした。
見た目はやや不格好だが、なんとなく愛嬌があるようにも思える。
もちろん機能的には何の問題もない。
また、2階のキッチンとワークスペースを分ける腰壁にも使用した。
カウンターの天板と、棚に、やはり600㎜以下の端材を使っている。
カフェ板以外にも支柱や枠の材料は、階段などに使った材料の残り、また、パネルに使っているのは、天井材の残りである。
階段を新たに作った部分は、床を解体したため(⑤参照)1階と2階の壁の間に、隙間が発生した。
その部分をふさぐために、端材と解体した床材や、作り付け棚の材料などを、ランダムに貼っている。
ペンキで汚れたものなども、あえて使った。
棚の残材は、シューズラックにも使っている。
以前の1階店舗部分には、細い丸太で作り付け棚が組んであった。
その丸太が面白いので、何かにつかえないかと取ってあった。
最後まで使い方が思いつかなかったのだけど、S氏がシューズラックを買って、置きたいと言う話をしていたので、それもDIYで作れば、棚の丸太を使えるのではないかと思った。
いろいろ悩んだ挙句、短い丸太をダボでつないで支柱にし、また例のカフェ板の端材を使って、シューズラックが出来上がった。
その他、カフェ板を六角形に組み合わせて、ボールプールなども作っている。
歩留りよく材料を使えたかどうかはともかくとして、プロの仕事なら許されないような、つぎはぎがかえって愛らしく、オリジナリティとしても感じられるようになったのは、DIYのメリットであったのではないかと思う。
余談にはなるが、さらに細かいカフェ板の端材は、積み重ねて co-ba kamaishi marudaiで開催中の、濱口芽個展「シルエットの感触」において、ポートフォリオや記名帳などを置く台(机)の支持材にも使っている。
また、それでも使い切れない残材は、燃やして芋煮や、焼き芋などの調理にも利用したりもしている。
今後、家具や遊具に使用することなども検討していきたい。