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しおひがり棟の軌跡⑤ 階段をDIY

それは最大の難問だった。

階段をDIYで作る。

しおひがり棟のリノベーションにとりかかる前、施工会社に発注する範囲と、DIYする範囲を図面上で色分けした。

その際には、出来るだけ施工会社に発注する範囲を出来るだけ少なくしようと思った。

当たり前のことだが、金が足りなくなると困るからである。

予算は当初の計画では400万円だった。

施工会社に発注するのが300万円で、残り100万円はDIYの材料費だ。

建築工事で300万円というのは、わずかな額である。

発注部分を少なくすれば、相対的にDIYの範囲が広くなる。

発注は赤、DIYは青で表記していたが、青色の文字が多くなるにつれて、僕の顔も青くなっていった。

ペンキや壁のしっくいの塗替えは、今までやってきたことなので、問題なくできるだろう。

床の張替えも、鈴鹿の古民家でやったことがある。

問題はカビが生えているため、全面貼替が必要な1階の内壁。

そして、階段の新設である。

しおひがり棟は、もともと屋外の階段で2階にあがるようになっていた。

それを借主の要望で屋内に階段を作ることにしたのだ。

動線計画から考えても、道路側の出入り口から親子が入ってきて、子どもは1階であずけ、母親は2階に上がるので、1階の入り口に近いところに階段があるのが望ましい。

階段は木工の中でも難易度が高いので、出来れば大工に頼みたかったが、予算オーバーの予感しかしない。

DIYといっても、設計に関してはプロだから、設計力(そんな言葉はないが)で何とかするしかないと思った。

それに小さい階段なら、あずま家の2段ベッドの上段にのぼるためのものを作ったことがある。

勾配はきついが作り方は階段と同じ

要はあれの大きいものを作ればいいのだと思うようにした。

なお、内壁の張替えのほうも不安には違いなかったが、やはり鈴鹿市の古民家でちょっとだけやったことがあったし、材料の石膏ボードもホームセンターで売っている。

なんとか出来るのではないかと考え、青の記載にした。

その二つの不安を抱えたまま、施工会社に図面を渡したところ、330万円の見積もりが来て、まずは一つクリアしたと思った。

予定より30万円多いが、その段階では予算を400万円から450円まで増やすことにしていたからOKだった。

内訳はトイレ2ヶ所のリフォーム(下水道接続を含む)と、キッチンの取替え、浴室の解体、樋の取替え、出入口鍵の新設、コンセント、照明などの電気設備工事。

それから、すでにやってもらっていた雨漏れ修理と、屋外階段の手摺の補修、壊れた窓サッシの取替えなど。

最終的には1階床の湿気対策(②参照)、バルコニーの鉄骨補強(③参照)、その他、計画外の工事で施工会社には420万円ほど払うことになってしまったが…

材料費は思ったより少なく済んで(照明器具の自作などにより。④参照)80万円ほどだったので、合わせて約500万円、当初より100万円の増加となった。

ともあれ、それは後の話である。

階段の設置は、工程を考えると終盤の時期になりそうだった。

なぜなら床がなくなると、2階の塗替えなどが出来なくなるし、1階の床を張った後でないと、その上に階段をのせることができない。

赤線で囲った部分が階段の吹抜けになる

具体的には2階の木部塗装、壁しっくいの塗替え、1階の内壁張替え、1階の床張りが終わってから、設置するのが無駄がない。

1つ目の難問、内壁の張替えはなんとか目途がたって、階段の設置が近づいてきたころに、(けっこうギリギリで)設計がまとまった。

(実は当初から設計してあったのだが、鉄骨の梁が見つかった関係で、その位置に設置できず、ボツになっていた)

人間、追い込まれると知恵が出るもので、1つのアイデアが思い浮かんだのだった。

通常、階段はササラ桁とか側桁を1階の床から2階の床、または踊り場に渡して、そこに踏板をのせるものである。

(上の写真のあずま家の階段は、ササラ桁方式)

しかし、それだと斜めの材を使うことになり、加工が難しく、墨付けも難しくて間違えそうだ。

精度を要する作業でもある。

素人でも可能にするために思いついたのは、斜めの要素を排し、縦と横の要素に分解すること。

数学で習ったベクトルの分解と同じく、斜めの矢印を、X軸とY軸に分解するようなイメージだ。

踏板1段1段を、それぞれ柱に負担させてしまえば、斜めの桁はいらなくなる。

さらに、それぞれの段を床から測っていけば、墨付けの間違いも起こりにくい。

DIYでなによりも恐ろしいのは、材料を間違えて切ったりして、無駄にすることだ。

時間もお金も無駄になり、気力もそがれる。

もう一つの大きなメリットは、手摺が不要になることだ。

踏板を支持する柱を上まで伸ばせば、そのまま転落防止の壁(格子状の)になるからである。

1枚の踏み板をそれぞれ、4本の柱に受材を渡してのせる。

内2本の柱は、上の段の柱も兼用している。

踏板が上下で重なる部分は「蹴込み」となる。

こうして斜めの要素の全くない階段の設計が出来た。

それまで材料はホームセンターで買っていたが、規格の材料だけでは難しいので、そこだけは釜石地方森林組合に発注することにした。

踊り場の部分は、大工に作ってもらった耐震壁(の柱)で支持

作るのは思ったより容易で、9月25日に2階の床を解体しはじめてから、2日後の27日には、階段そのものが出来上がっている。

地域おこし協力隊のS氏(完成してからは運営者でもある)とI君にも手伝ってもらいつつではあるが、3日で出来たので、だいぶ予想より早くできた。

吹抜けの手摺格子

なお、吹抜けの手摺は、2階の床を張ってから、それに打ち付ける形で設置したので、安全に利用できるところまで完成したのは10月1日だが。

格子状の壁に、浮遊感のある踏板がついたモダンな外観となり、はからずも見学に来た人に「おしゃれ」と言ってもらえるものになった。

ずっと「階段もウチでやりましょうか」と心配していた施工会社の社長も、完成した階段を見て驚き、写真を撮っていた。

ともあれ、階段が出来た時点で、ようやくこのリノベーションの「ゴール」が見えたように思ったのだった。

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