誰かが飛び込めばはじまる
2月14日に宮城県金融商工課が主催した「商店街NEXTリーダー創出事業」のネットワークミーティングで、講演の依頼があった。
これまでは講演とまではいかない、視察対応などで30分程度の話を依頼されたことはあった。
その場合は、単に釜石大観音仲見世リノベーションプロジェクトを起点とする取り組みを、時系列で紹介するだけだった。
しかし、今回は1時間20分もの持ち時間があり、それだけでは尺が足りないし、そもそも芸がない。
そこで、2部構成にして、前半をこれまでのような取り組み紹介、後半をこのNOTEに書いたことをはじめとして、他の地域で見てきたことや、自分で考えたことを、仲見世で実際に行って得られた知見を、ある程度まとめて話すことにした。
このNOTEに投稿した内容も半分ほど紹介しつつ、新たに考えたことや、特に言語化、文章化してはいなかったが、頭にあったことなどを話した。
そして、最後に「誰かが飛び込めばはじまる」と書いたスライドで締めくくることにした。
3人の…というか3つの言葉の引用を根拠にして、任意の町(商店街など)で、一つの物件をリノベーションすると、周辺の物件で次々とリノベーションが行われるようになる。それは普遍的な法則である、ということを意味している。
3つの引用の内の1つは、15年ほど前に聞いた、三井物産戦略研究所、園田正彦氏の言葉だ。
地域おこしのプロジェクトに携わっていた園田氏は、数々の地域で新しい事業を提案したが、なかなか実施されないと話していた。
その例えとして、プールに飛び込む勇気のない人たちが、プールの周りをぐるぐる回っていると表現していた。
2つ目の引用は、NHKの朝ドラ「あさが来た」の「ファーストペンギン」という言葉。
説明するまでもないほど有名な言葉のような気もするが、一応説明する。
ヒロインの白岡あさは明治時代に日本初の女性事業家として活躍した、広岡浅子がモデル。
あさに対して、五代才助役のディーン・フジオカが「あなたはファーストペンギンだ」という。
ペンギンは集団で陸で生活するが、餌を取ったり、よりよい生活の場を求めたりするために、海に入って移動する必要が生じる。
しかし、海の中にはシャチなど外敵がいて、襲われてしまうかもしれない。
そんな時に、集団の中で一番最初に飛び込むのがファーストペンギンであり、ファーストペンギンが無事とみると、他のペンギンも飛び込むのだという。
3つ目の引用は、リノベーションまちづくりの提唱者、清水義次氏の「町にダイブせよ」という言葉。
清水氏はバブルが崩壊した90年代の初め頃、南青山の不良債権となっていた民家を借りて、飲食店を始めた。
飲食店は繁盛し、すると、その周辺に次々と店舗が出来たという。
それを原体験として、リノベーションまちづくりの構想を作った。
以上、3つの、あるいは3人の言葉に共通するのが「飛び込む」という意味の表現なのだ。
生き残るためには、誰か1人が飛び込むことが必要であり、1人が飛び込めば、周りの人も飛び込む。これは人間のみならず、ペンギンの世界にも共通する法則であり、つまるところ集団を形成する生物の本能なのだろう。
いろいろな話をしたが、どうやらこの最後のスライドが、最も聞いた人の印象に残ったらしく、懇親会では「ファーストペンギン」とか、「ダイブ」という言葉が多く聞かれた。
そして、参加していた「六日町通り商店街」のメンバーから、「六日町通り商店街にもファーストペンギンがいる」という話を聞いた。
実際そのファーストペンギンと称された人も来ていて、名刺交換をすると、カフェを経営しているということだった。
早速、翌日、そのカフェ「かいめんこや」に行き、六日町通り商店街を街歩きしてみた。
場所は宮城県の北部、栗原市の栗駒岩ケ崎というところにある。
東北自動車道、若柳金成インターを降り、西に向かって田畑の中の一本道を走ると、ロードサイドのチェーン店が並ぶ、集落が見えてくる。
昔は山城があったというが、小規模な町のように見えた。
商店街としては、仲見世商店街より店舗は多いが、やはりシャッターが閉まっている商店が多い。
しかし、歩きながらよく見ると、そんな中に、新しくリノベーションされた洒落た店が点在していた。
飲食店やアパレル、アウトドア、雑貨など。
現在、開店準備中の文房具店などもあった。
ヨソモノの杉浦風ノ介という人が、薬屋だった古い木造住宅をリノベーションし、CAFEかいめんこやがオープンしてから数年で、10店舗の新規開業があったということだった。
まさに、清水義次氏の原体験と同じ現象だ。
そして、今後、釜石大観音仲見世でも同じ現象が起こるに違いないと、確信を強める事例でもある。
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