しおひがり棟の軌跡⑨ みんなでつくるスペース
シリーズの最後は感謝の意味を込めて、このテーマで締めくくろうと思う。
単なるDIYリノベーションというだけでなく、リノベーションまちづくりに限った話かもしれない。
空き家や使われなくなった建物を、コワーキングスペースにしたり、カフェにしたり、ゲストハウスにしたりして、まちづくりの起点にするのは、もはや確立された方法論と言ってもいいだろう。
釜石大観音仲見世でも、まさにその3点セットをつくりあげてきた。
いずれの施設も、ボランティアでいろいろな人に手伝ってもらって、DIYリノベーションを行った。
そのノウハウを使って、小さい子どもがいる母親が働くスペースである、しおひがり棟も同様にしてリノベーションした。
ペンキの塗替えや、しっくい塗りは、比較的誰でも出来て、道具もあまりいらないので、手伝ってもらいやすい。
その作業をなるべく休日に当て込んで、フェイスブックでお手伝いの募集を行った。
結果的に40名の方にお手伝いいただいた。
暑い中、ペンキやしっくいで汚れながら、塗替え作業などをしていただいた皆さんには、感謝の念に堪えない。
ちなみに、木工を手伝ってもらうのは、意外に難しい。
道具もたくさん使うので、大人数では出来ないし、丸ノコなど大きなけがをする危険がある道具もある。
その辺りは、⑥にも登場する、入居予定者(現入居者)のS氏や、地域おこし協力隊のIくんなどに、主に手伝ってもらった。
釜石大観音仲見世ですでに完成した3施設の場合と、今回のしおひがり棟で少し違うところが、ボランティアに来てくれた人の層だ。
親子での参加が、特に多かったのだ。
3才ぐらいだろうか、小さい子どもも、ちらほらいた。
意外に小さい子どもでも、ペンキを塗ることは出来るもので、ちゃんと仕上げとして残っている個所もある。
子どもが一緒に来なくても、子どもがいる親世代の参加も多かった。
小さい子どもがいる親が、子どもをあずけてリモートワーク出来るという施設なので、その世代に共感する人が多かったのだろう。
しおひがり棟は、現在、LIFULL FaMとなって、毎日利用されている。
子どもを連れた母親の働く場でもあるが、子どもがある程度、大きくなった母親の働く場としても機能している。
母親は1階で子どもをあずけ、2階のワークスペースに上がる。
1階では子どもを預かる、ベビー(キッズ)シッターがいる。
その多くが、子どもがある程度大きくなって、手が離れはじめた母親だ。
シッターの1人のSさんは、DIYでしっくい塗りや、床張りも手伝ってくれている。
リノベーションを手伝ってくれた人が、施設を利用する。
これが一番、ストーリーとしては美しいと思う。
その他のシナリオとしては、次のようなものがある。
施設利用者ではないが、手伝ってくれた人が完成を見に来る。
リピーターとして遠方から釜石に来ていて、DIYを手伝ってくれた人が、完成してからまた釜石に来て、施設を見に来る。
「自分がここを塗った」と一緒に来た人に指さして教える。
また、今回手伝ってくれた子どもが大きくなって、見に来てくれたらと想像すると楽しい。
そういう循環が、みんなでスペースを作ることのよさである。
最後に、お手伝いいただいた皆様に、改めて感謝の意を表します。