背信

村のあちこちはむごい状況になっていた。

家々は焼けて、まだ火が残っていて煙りがあがり、

村人と鎧を纏った兵の死体がごろごろと転がっていた。

血の水たまりができていた。

赤い液体。

血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血。

槍で胴体を串刺しにされたもの、胴が二つに別れているもの、腕が片方ないもの、首がないもの、胴がないもの、足がもげているもの、目が無いもの、様々だった。

「む、無念……ッガ」

男は口から血を吐き出した。

どっと後ろに倒れた。

片腕を失い、目は片方見えなくなり、刀や槍が幾本も胴体を貫き、頭に矢が刺さっていた。

その倒れた男の周りには肩で息をしている兵隊たちがいる。

「この者に……何人やられた」

後方の方に控えていた、まとめ役の者がとなりの者に訊ねた。

「約、八千と五百」

「一人に、八千人が殺されるか……まさに……鬼」

まとめ役の頬から大きな汗の粒が流れ落ちた。

「へ、倒しても倒しても湧いてでてきやがるな……」

「お前と同じ場所で死ねるならわるくない」

寅次郎は血に濡れた龍氣丸の顔を見る。

「悪くない人生だった」

「俺もお前と出会えたから最高だったと思う」

お互いはにかんだ。

そして同時に声を出して笑った。

「龍氣丸、お前は生きなきゃいけねえよ」

「なにを寝言を、寝言は床の間で言え」

周りを取り囲むように鎧を着た者たちが様子を覗っていた。

どん!

寅次郎は龍氣丸のみぞおちに強烈なのを一撃たたき込んだ。

龍氣丸はひざから崩れる。

まわりの兵たちがおおとざわめく。

「な、なにを」

「珠代ちゃんによろしくな」

「ふざけっ!!」

寅次郎は龍氣丸を思いっきり蹴った。

崖の方まで飛んで行った龍氣丸は真っ逆さまに落ちていた。

龍氣丸が落ちていく時にみた相棒の顔は、笑っていた。

無邪気な笑顔だった。

ただ、いつもと違って戦装束と、赤い液体が体中にこびりついていた。

「さて……」

寅次郎は握っていた槍を握りなおし構えた。

「おめえら全員ぶっ殺してやるよおおお!!!」

うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!

一人の人間に大量の兵が突撃していった。



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