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斑鳩寺の地球儀

 コロナ前まで小学館のサライで、博物館めぐりの紀行連載を書いていた。
 旅先ではたいてい博物館に入って面白いものを探している。博物館だけでなく、歴史民俗資料館みたいなところや、神社仏閣の宝物殿だって時間が許せば入ってみる。
 そうやってるとたまに、これは! と思うふしぎなものに出会うことがある。なので、それを紹介する場が欲しいとずっと思っていた。その意味でサライの連載はありがたかったのだが、終わってしまって残念である。
(ぜひ宮田に博物館めぐりをしてほしいという編集者からの連絡をお待ちしている)

 旅先で出会ったふしぎなものはいろいろある。
 そんななかのひとつに、これはサライよりだいぶ前に見たのだが、播州斑鳩寺の霊宝殿で見た謎の石がある。

 播州斑鳩寺といえば、聖徳太子創建の由緒ある古刹。この霊宝殿に展示されている石は、大きさがソフトボール大、表面に凸凹があり、よく見るとところどころ文字が書かれた痕跡が残っている。正体は何かというと、実はこれ、地球儀である。

 できれば写真をお見せしたいが、ずいぶん昔のことで写真を撮ったかどうかも覚えていない。見たい方は「斑鳩寺 地球儀」で検索すると出てくるのでぜひググってほしい。

 聖徳太子の生きていた飛鳥時代には、地球が丸いなんて誰も知らないはずだから、奇跡だのミステリーだのと騒がれたりもするが、斑鳩寺重物帳には、地中石なる記録が安政の頃に登場しており、実際は江戸時代のものだろうと考えられている。

 日本人が地球が丸いと知るようになったのも江戸時代で、多くの世界地図が翻訳され刊行された。この地球儀もそれらの地図の内容とほぼ合致している。

 凸凹をたどってみると、アジアからヨーロッパ、アメリカ、アフリカあたりは、なかなかに正確だ。スカンジナビア半島やカスピ海、マダガスカルらしき島もある。南米アマゾンには”食人国”と書かれていて可笑しい。さらにパタゴニア近辺は”長人国”となっていて、これは寺島良安の『和漢三才図会』に、身長三、四丈(九~十二メートル)もある人が住んでいると紹介された架空の国である。南半球を見ると、大きな墨瓦蝋泥加と呼ばれるこれも架空の大陸があって、情報の少なかった南半球は、昔からそのように描かれるのが通例であった。

 ただ、この地球儀には不可解な点がある。それは太平洋の真ん中に奇妙な大陸が描かれていることだ。花びらのように三つに分断された大きな島が浮かんでいる。ムー大陸ではないか、などと言う人もあって、これがこの地球儀の真の謎である。

 調べてみたところ、長久保赤水の『地球万国山海輿地全図説』に、それらしき島が描かれていなくもない。太平洋上に別山と書かれた三つの島からなる群島、あるいは無福島と書かれた四群島があって、それが現在のハワイやクック諸島あたりに位置するのである。もちろん、それに比定するにはデカすぎるのだが、もともとこの地球儀は、琉球などもずいぶん巨大だし、カスピ海など指でぎゅっと押し込んだような丸い穴だったり、どんな小さな島も親指の頭ぐらいになってしまっているので、太平洋に浮かぶ島がこういう表現になったとしても不思議はない気がする。

 だがまあ、正確なことはやっぱりわからない。興味のある人はぜひ地球儀を生で見て、自分で推理して欲しい。果たして謎の大陸は、ムー大陸なのだろうか。
 
 
 

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