小笠原 ボニンブルーの休日(5)夕暮れのウェザーステーションで

 小笠原の魅力は、海だけではない。星野さんはわれわれを、ナイトツアーに、トレッキングに、夕日が見える展望台ウェザーステーションにと、次々と案内してくれた。
 ナイトツアーでは、天の川を眺め、天然記念物のオガサワラオオコウモリを発見し、光るキノコ・グリーンペペも見物した。トレッキングでは多くの固有植物を見、旭山から広大な海を眺めた。
 新しいスポットに行くたびに、星野さんが「ここは若いカップルがこっそりデートに来るスポットです」と言うのが決まり文句で、間違って墓地に迷い込んだときですら「ここは若いカップルが……」と語るのがおかしかった。
「それ全部自分のことじゃないんですか」
「いやいやいや」
 若い頃の星野さんが悪い男だった疑惑も浮上。
 いずれにしても島には若い人がいっぱいで、それが小笠原に来て何より驚いたことだった。
 そして、毎日通ったウェザーステーションでは、夕焼けにはうるさいと豪語する古見君が三脚を立ててベストショットを狙うその横で、私は、なんかもうこのままずっと風に吹かれていたい気分で、とろけきっていたのである。
 これから急いで東京に戻る理由が、何かあるのだろうか。
 何もないような気がする。いや、本当はあるけど、何もないってことでいいような気がする。


「Scapes」2014.6月号

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