地図趣味
地図は楽しい。
地図を見ているだけで何時間も過ぎてしまう。
ここはどんな場所なんだろうと想像しながら、その地を旅する自分の姿を思い描く。無人島に持っていく一冊を選ぶなら、地図で決まりだ。
そんな私なので、地図趣味というそのものずばりのタイトルの本を見つけたら、手に取らずにはいられなかった。
著者は、さまざまな地図を紹介しながら、地図への愛とその楽しみ方を語る。はじめは地図としての機能よりも、それを絵画のように鑑賞することに喜びを覚えたそうだ。
その言葉を裏付けるように、冒頭からオールカラーで並ぶ地図はどれも美しい。古地図や地質図、海図、天文図、月面の地図から双六、架空地図まで。
それらを見ているだけでも楽しいが、著者が自ら描いたユニークな地図も面白い。興味の赴くまま、地下鉄の深さを路線ごとに図にしてみたり、散歩マップ、地形の凸凹がわかる地図など。
どうやら著者は、趣味が高じた結果、制作を依頼されるまでになったらしい。どこまでが趣味でどこからが仕事なのか、その境界もわからないほど、どれも完成度が高く、そして楽しそうだ。
そして著者の愛はさらに暴走する。
なんと地図を食べるのだ。地層ムースだの等高線ケーキといった不思議なおやつを作って食べる。
また、都道府県や島の形のアクセサリーを自作して身につける。街に出て壁の写真を撮り、その模様に勝手に地図を見出す、などなど。とにかく縦横無尽に楽しみ尽くすさまは、まさに「地図趣味」。
ここまで多角的に、否、手当たり次第にと言ったほうがいいぐらい地図の喜びをむさぼる人は、そうそういないのではあるまいか。
うらやましい。自分もこのぐらい何かに淫してみたくなった。
「地図趣味。」杉浦貴美子(洋泉社)
産経新聞2016.9.3