【重版出来記念】私はどのようにして長編小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』を書いたか、そして書いてみたら起こったふしぎなこと
昨年10月に初めての長編小説『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』(大福書林)を出版し、今大変浮かれている。
というのもこれまで私は長編小説を書く書くとはるか昔、白亜紀ぐらいから言い続け、それなのにちっとも書かないために、ありがちな小説書く書く詐欺と化している自分を心苦く思っていたからだ。
実にありがちなみっともない状況ではないか。
短編小説はいくつか雑誌やWEBで発表していたものの、それすらも遠い昔で、今やネット上に残骸さえも残っていない。私と小説の距離は、書きたいという強い思いに反して遠くかけ離れていたのである。
それがようやく書いた、しかも長編を書いたのだから、浮足立っても仕方ない。
長編小説に挑戦したのは、正確にいうとこれが初めてではなく、10年以上前にノンフィクション作家の高野秀行さんや内澤旬子さんとともに「エンタメノンフ文芸部」を結成し、伝奇小説を書いてみたことがあった。
そのときは野心あふれる一大サーガ小説を構想し、原稿枚数にして500枚ぐらいまで書いたのだが、最後まで書ききれず玉砕。話は中盤にさしかかったところで、そのままいくと1000枚を超えそうに思われ、いやそれでも終わらずたぶん全8巻ぐらいになるものと予測され、出版のあてもないのに時間を食いすぎていることが大きな心の負担となっていた。
さらに「エンタメノンフ文芸部」内で途中まで読んでもらったら、みんなの感想も芳しくなく、ああ、これはいったい何の時間の浪費であろう、まるで全宇宙に存在しながら何の役に立ってるのかもわからないブラックマターのようではないか。
たしかに自分で読んでみても、思いついたことをなんでも詰めこんだせいで、話がごちゃごちゃになっており、こりゃダメだと頭を抱えた。
この一大サーガについては、土台から考え直し、もっと短くしてあらためて挑戦したいと思うが、この経験により長編小説は難しいという先入観が胸に刻まれ、今の仕事を捨てて全精力を傾けないと無理だと思うようになった。
性格的に2つ以上の仕事を同時に進めるのが苦手なのである。
まずは生活費を稼がなければならないから、出版のあてのない小説は後回しにならざるを得なかった。
そんなおり、新型コロナの蔓延で旅行にいけなくなり、一気に仕事が激減した。生活は苦しくなり途方に暮れた。途方には暮れたけれども、だからといってあわてて仕事を取りにいっても、この時期難しいだろう。むしろ時間ができたこの機会にしかできないことにトライしてみるのがいいのではないか。
そういえば、ちょうど大福書林の瀧さんから、東洋奇譚について何か書いてみてはどうかと打診されていたのではなかったか。
瀧さんとはかつて『おかしなジパング図版帖』という本を一緒に作ったことがある。これは17世紀にオランダ人のモンタヌスという人物が日本について記した奇書を紹介した本である。モンタヌスは日本に来もしないで挿絵を描いたため、いろいろと絵が間違っており、ツッコミどころが満載で紹介するのが楽しかった。
そんな面白さを共有していた瀧さんなので、西洋人が見た間違った東洋について、もっと何かできることがあるのではないかとそれぞれに機会をうかがっていたのである。
打診された当初は、何かビジュアル本のようなものを想像していた。西洋人が書いた奇譚集、たとえば講談社学術文庫の『西洋中世奇譚集成』シリーズなどには、ふしぎでおかしい短い話がたくさん載っているから、あれを絵本にしてみると面白いのではないか。あるいはそれを参考にして自分で奇譚集を考える?
しばらくいいアイデアが浮かばなかったが、そういえばジョン・マンデヴィルの『東方旅行記』という面白いデタラメ旅行記がある。あれを紹介してはどうか。いや、いっそそのデタラメな東洋世界を旅する話が面白いのではないかと思いついた。
そんな経緯で、書きはじめたのが2020年の8月。初稿を書き終えたのが12月。瀧さんのフィードバックを受けて書き直し、完成したのが2021年3月だった。
そのあと網代幸介さんに装画を描いてもらい、大島依提亜さんに装丁してもらって、2021年10月に出版にこぎつけることができた。
ようやく書く書く詐欺状態を脱し、肩の荷が下りた。たった1作書いただけでいい気になってもしょうがないが、それでも内心では達成感で浮足立ってしょうがないのだった。
で、本題はここからである。
なぜあんなにも書けなかった小説が急に書けるようになったのか。
いったいどうやって書いたのか。
そして、実際に長編小説を書いてみたら、ふしぎなことがあったので、それらについて順次まとめて記しておこうと思う。
役に立つかどうかはわからないが、ネタバレのオンパレードなので、ここからは鍵をかけて期間限定の有料記事にしたい。
値段も高く設定したので、どうしても買ってほしいとは言わない。ここからはよほど興味のある人のみ読んでもらえればと思ってます。
『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』を読んでいない人には何のことやらちんぷんかんぷんな話であり、小説より先にこっちを読むとラストまですべてネタバレしているので、それもご注意ください。
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