慶応高校の優勝と、発展途上国のスポーツに貢献する日本の野球力
夏の甲子園(第105回全国高校野球選手権記念大会)で慶応高校が優勝した。選手たちが髪を伸ばした慶応高校の優勝は、同調圧力の強い高校野球のあり方を変え、様々な運営分野で改善が進む契機になればと思う。
今回の大会でベスト8に進んだおかやま山陽高校の堤尚彦監督(53)には青年海外協力隊(JICA海外協力隊)でジンバブエとケニアで野球指導の経験がある。2019年には東京オリンピック予選でジンバブエの野球監督として指揮をとった。また日本で古くなった野球の用具を集めてアフリカ諸国に寄付する活動も行ってきた。7月に出版した著書「アフリカから世界へ、そして甲子園へ」の印税収入はジンバブエ第2の都市ブラワヨの球場建設費用に充てるのだそうだ。おかやま山陽高校が勝ち進むにつれて本も注目されるようになり、セールスを伸ばしていった。同野球部の渡辺颯人主将も堤監督の活動に参加したいと語るなど堤監督の活動は若い世代にも海外への関心を生んでいるようだ。とかく日本の若者は内向きになっていると言われる中、若い人たちの目を海外に向けさせる堤監督の活動は貴重だ。
JICA海外協力隊の目的は開発途上国の国づくりに貢献できる人材を派遣し、帰国後もグローバルに活動できる人材を養成することにあるそうだが、派遣された国での苦労は言語、習慣、経済状態など想像に難くない。
2019年に堤監督と同じジンバブエに野球指導で派遣された青木彰吾氏によれば、ジンバブエの野球認知度は100人に1人ぐらいのレベルなのだそうだ。オリンピック予選でアフリカ地区3位となったナショナル・チームの存在も知られていないらしい。青木氏は、海外協力隊員としての責任について「自分1人の行動で、周囲の人の日本のイメージ、いや、異国全体のイメージを変えかねない。それは良い方向にも、悪い方向にも。それは自分だけの問題だけではなく、今後に影響する問題だ。そういった責任感をもち、現地の文化や習慣を尊敬することがJICA海外協力隊として必要不可欠な要素であり、常に意識し、行動している。」と書いている。
JICA協力隊の野球指導には、野球とともに日本の礼儀を教えてほしいという希望もあるようだ。ブラジルで指導した黒木豪氏の体験談だが、黒木氏が指導したチームは予選全敗だったのが、全国3位になった時には泣けたそうで、黒木氏はその後2013年のWBCブラジル代表のコーチに就任し、帰国後は母校日体大のJICA海外協力隊の窓口担当になった。今年3月にWBCが話題になった頃、野球でナショナリズムを煽るなんて・・・という声もあったが、大谷翔平選手は日本の優勝後、韓国も台湾も、さらに中国も野球をもっともっと好きになってくれればと語っていた。
JICAの青年海外協力隊として2005年にダマスカス大学の日本研究センターで日本語を教えた平田未季さんは、「みんな勉強熱心で、授業が終わっても『もっと日本語で話したい』って、教室を去ろうとしないんです。夏休みが始まる前には一斉に『いやだー!』って反応で、日本語を学ぶことを心から喜んでいました。」と当時を回想している。
「私がいたころのシリアは日本と同じくらい安全でした。財布を落としても、拾った人がJICAの事務所に届けてくれて。困った人を助けてくれる、人情に厚い人が多い国なんです。同僚のシリア人日本語教師は、初代の協力隊員に習った卒業生で、会計士としても働きながら、熱心に学生や私たちの面倒を見てくれました。彼女や学生たちに会い、『◯◯人は』ではなく、名前で呼び合える関係こそが、簡単には揺るがない『親日』なんだと気付きました」。
http://www.alc.co.jp/jpn/article/aitoheiwa/2016/07/7.html
シリアが一日も早く平田さんが書かれた時代のように、国の安定や平和を取り戻してほしいと思うが、海外協力隊員の地道な努力が日本のイメージを向上させ、また発展途上国にある問題を教えてくれる。グローバルサウスの国々の日本に対する親近感や敬意はG7の国々と親密になれば得られるというわけでは決してない。隊員たちの真摯な活動ぶりや現地の人々との親密な交流が派遣された国々では好感をもって見られている。上の青木氏の発言にある自分一人の行動が日本や異国全体のイメージ変えかねないというのは私たち日本人全員が背負わなければならないものだろう。
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