トランプ大統領誕生と中東イスラム世界の恐怖 ―世界はパラノイアによって支配されている(ジョン・レノン)
アメリカ大統領選はトランプ候補が優勢なようだが、ハリス陣営がアラブ・イスラム系アメリカ人の票を獲得できなかったとすれば、イスラエルのガザ戦争に優柔不断な対応をしたことに尽きる。バイデン政権は国際司法裁判所を含めて国際社会の多くが、イスラエルがガザで行っていることを「ジェノサイド」と認定してもなおイスラエルに武器・弾薬などの支援を与え続けた。
ミシガン州ハムトラムク市のイエメン系のガーリブ市長は早々にトランプ支持を決めた。ハムトラムク市は人口3万人ぐらいだが、過半数の人口がイスラム教徒だ。ハリス候補がディック・チェイニー元副大統領や、その娘のリズ・チェイニー元下院議員の支持を得ると、トランプは、チェイニー元副大統領がイラク戦争の立案者であることを強調し、イスラム教徒を憎む人物がハグするハリスに投票してもよいのでしょうかとSNSで語った。他方でトランプは、バイデンとハリスがガザでのイスラエルの戦争遂行を妨害しているとも述べている。
トランプは大統領になれば、今年春から発生したアメリカの大学などで発生したガザと連帯する運動についても強硬な姿勢に臨むに違いない。大学生たちのガザと連帯する座り込みなどを「シャーロッツビルの100倍だ」と述べたことがある。シャーロッツビルの事件は2017年8月に極右に抗議する人々に白人至上主義者が車で突入し、1人が亡くなった事件だった。
トランプはまたイスラム教徒の入国禁止令を復活させることを明らかにし、特にハマスと連帯するイスラム教徒は厳格にチェックし、排除する意図を明らかにしている。
トランプの娘婿であるジャーレド・クシュナー、マイク・ポンペオ元国務長官などが、トランプ政権がさらにイスラエル支援の政策を行う計画を進めている。キリスト教福音派の支持を受けるトランプは政権1期目に、アメリカ大使館のエルサレム移転、シリアのゴラン高原にイスラエルの主権を認定、またイスラエルによる占領地の入植地拡大を支持するなど様々な親イスラエル的政策をとった。
アメリカ大使館のエルサレム移転を推進した人物に、ユダヤ系アメリカ人のカジノ王シェルドン・アデルソン(1933~2021)がいた。彼は、2016年のトランプの大統領選挙活動に3500万ドル(37億円余り)を寄付し、エルサレムのアメリカ大使館建設資金にも多額の拠出を行った。シェルドン・アデルソンは2021年に亡くなったが、その夫人ミリアム・アデルソン(1945年生まれ)は少なくとも1億ドルの寄付をドナルド・トランプ陣営に行い、その見返りとしてイスラエルによるヨルダン川西岸併合を求めている。選挙資金や裁判費用が足りないトランプは、公約の安売りをすることによって、寄付を募るようになったとイスラエルのハアレツ紙も書いている(24年6月3日)。こうした献金はアメリカ民主主義の著しく腐敗した一面を示しているが、トランプがイスラエル支持の政策をいっそう鮮明にすることは明らかだ。
トランプは、過去数カ月間、ガザにおけるイスラエルの戦争について、イスラエルが「PR戦争に負けている」と述べて、抑制的な批判を行ってきた。しかし、彼はバイデンやハリスよりもイスラエルにとってより良い友人と自分自身を位置づけている。
トランプはイラン核合意から離脱したが、イラン核合意ではイランはウラン濃縮度を3.67%までしか認められなかったが、トランプの離脱を受けて60%まで濃縮度を上げた。トランプの政策はイランをロシアに近づけることになり、ロシアはイラン製の攻撃型ドローンの最大の顧客となっている。
トランプによるイスラエルとアラブ諸国の正常化はハマスの強い反発を招き、ハマスの昨年10月7日の奇襲攻撃をもたらす一要因となった。トランプは中東を金銭感覚でしか見ることができず、2022年11月トランプ・オーガニゼーションは、オマーンの住宅・ゴルフ複合施設に「トランプ」という名称をつける約16億ドルのライセンス契約を結び、その複合施設はサウジアラビアの不動産開発業者によって建設されることになった。トランプが中東諸国に武器を売却することにより熱心となり、それが中東の紛争要因をつくることは明らかだ。サウジアラビアはトランプ政権と1100億ドルの武器取引を行い、それがイエメン空爆に用いられてイエメン紛争をいっそう悲惨なものにした。
ジョン・レノンは世界は偏執狂によって支配されていると語ったが、トランプが大統領になればまさにそんな感じだ。
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