アメリカ・イスラエルの国際的孤立とイスラエルの「鉄の壁」 ―ネタニヤフ政権はアラブ人をナチスにたとえる
アメリカのバイデン大統領は12日、「イスラエルは無差別攻撃によって世界で支持を失いつつある。現在のネタニヤフ政権はイスラエル史上最も保守的な政権で、現在の政府を変える必要がある」と述べたものの、イスラエルが自衛のために必要なものを提供していくことも強調している。実際、12日に開かれた国連総会ではガザの停戦を求める決議は賛成153カ国、反対10カ国、棄権23カ国で成立し、アメリカ・イスラエルの国際的孤立はいっそう明白になった。アメリカ・イスラエルの政策を変えるにはこれら二国に孤立感を与えるのが効果的のように思われる。
イスラエルでは、10月7日のハマスの奇襲攻撃を「ポグロム」にたとえる声が強まっている。「ポグロム」というロシア語には、「破滅させる、暴力的に破壊する」という意味があり、旧ロシア帝国でのユダヤ人に対する暴力的な攻撃について用いられた言葉だ。ポグロムが最初に発生したのは1821年に現在のウクライナであるオデッサ(オデーサ)で発生したユダヤ人襲撃とされる。(ホロコースト百科事典)有名なミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」も最後ポグロムによって家族がアメリカに移住するところで終わる。
イスラエルではハマスの攻撃は、ポグロムに見られるような反セム(ユダヤ)主義によって起こされたと考えられている。そこには、イスラエルによるガザへの経済封鎖に伴うパレスチナ人の生活上の困苦であるとか、イスラエルによる入植地拡大、パレスチナ人に対する人権侵害とかいう議論はほとんどない。
パレスチナ全域をユダヤ人が支配するという領土的絶対性を説く修正シオニズムのイデオロギーを創始したウラジミール・ジャボチンスキー(1880~1940年)は、現在からちょうど100年前の1923年に『鉄の壁』というエッセーを書き、力によってアラブ人を屈服させることを説いた。
「アラブ人との合意を得ることができる唯一の道は、鉄の壁である。それはいわば、いかなるアラブの圧力をも敵としないパレスチナにおける強力な権力なのだ。」(ジャボチンスキー『鉄の壁』)
http://www.asyura2.com/0505/holocaust2/msg/540.html
イスラエルにはこの修正シオニズムの潮流があり、アラブ人との妥協は危険という考えが根づいている。1993年のオスロ合意を推進したイツハク・ラビン首相は暗殺され、イスラエル国内ではイスラエルに隣接するパレスチナ国家との共存という考えは終わったかのようだ。
ポグロムやナチスの強制収容所の記憶は、イスラエルの学校では繰り返し教えられ、アラブ人は我々がユダヤ人だから攻撃するという考えが浸透するようになり、それがパレスチナ人に対する大規模な暴力を肯定するムードになっている。パレスチナ人の抵抗はナチスの暴力に譬えられ、1982年にレバノン侵攻を行ったメナヘム・ベギン首相はPLOのアラファト議長をヒトラーだと形容した。イスラエルはレバノンの首都ベイルートに対する無差別な大規模空爆を行ったが、ナチスとの比較は現在のガザ攻撃にも用いられている。
ユダヤ系の哲学者のハンナ・アーレントはパレスチナへの植民を進めるハイム・ワイツマン(初代イスラエル大統領となった人物)はイギリス帝国主義の下僕であり、ユダヤ人の領域から異民族を徹底的に排除することを考える修正主義者たちを「ファシスト」と形容するようになった。アーレントは、シオニストの指導者たちは植民地主義を追求していると訴え、またシオニズムを「血(兵士)」と「土(領土)」によるナショナリズムと考えるようになった。
1948年にイスラエルのへルート党(修正シオニズムに基づく政党)の党首メナヘム・ベギンが党の活動資金調達のために訪米すると、アーレントは物理学者のアインシュタインなどと共に「ニューヨーク・タイムズ」に意見広告を出し、「今日、へルートは自由、民主主義、反帝国主義を説くが、つい最近まではファシスト国家のイデオロギーを公然と喧伝していた。その手段はテロリズムと虚偽の宣伝であり、イスラエルが覇権国家になることがその目的である」と訴えた。アーレントが「ファシスト」と呼んだ「修正主義者」たちのイデオロギーは、現在のネタニヤフ政権を性格づけ、ガザに対する無差別な攻撃を行うようになっている。まさにアーレントやアインシュタインたちが予見し、危惧したような事態となっている。
表紙の画像は: 米大統領「イスラエル支持失う」 無差別爆撃で政権批判
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?