パレスチナ問題 ―善良なる日本人の判官びいき
BBCの世論調査でイスラエルが世界に肯定的な影響を与えているかという問いに対して、日本ではそう思うと回答した人が2012年が3%、2013年も3%、2014%は4%と世界の国々の中では突出して低かった。2014年はイスラエルがガザに大規模な攻撃を行い、2200人余りのパレスチナ人が犠牲になった年だった。アルバムの中の画像のように、イスラム教徒が圧倒的に多いインドネシアやパキスタンよりも低い。2017年には、日本は調査対象とならなくなってしまった。
「判官(ほうがん、あるいははんがん)びいき」とは「悲劇的英雄、判官源義経に同情する気持ち。転じて、弱者・敗者に同情し声援する感情をいう」(デジタル大辞泉の解説)。日本人の中東情勢に対する見方にはこの判官びいきの心情が働いているのかなとも思ってしまう。2014年夏のガザ攻撃、分離壁の建設、ヨルダン川西岸でのイスラエル人入植地の拡大などを見るにつけ、パレスチナは弱者であるという見方は多くの日本人に共有されていることは明らかだ。
水谷周氏(日本ムスリム協会理事)は『集団的自衛権とイスラム・テロの報復』(青灯社)の中で次のように語っている。
「アラブ・ムスリムから見れば、長い間日本は友好的でかわいい兄弟のような存在であったということは、広く知られている。「ヤーバーン・クワイエサ(日本は善良だ)。」という言葉は、お世辞ではなく道行く市民や大学仲間たちから普通に耳にする声であった。(中略)
日露戦争で非西欧国家としてはじめて日本が欧州のロシアに勝利したことである。エジプトでは小学校で教えられる詩歌のテーマとなり、さらにはアラブを越えてトルコなどでも同様な扱い振りである。(中略)
それに加えて、日本が営々と積み重ねてきた外交努力がある。なかでもPLO(パレスチナ解放機構)に早くから代表権を認めるなど、その立場に理解を示すパレスチナ問題への取り組み方が、アラブ・ムスリムの琴線に触れるようにして好評を博していたのである。(中略)
最後には、日本同情論がある。訪日するアラブ人には日本は世界唯一の被爆国であるという意識が前面にあり、広島や長崎を訪れる人々が大きな比率を占めているという事実はあまり日本では知られていない。正確な統計はないかもしれないが、関西の観光旅行よりもまず、被爆地が優先されるケースが少なくないのである。
ヤコブ・ラブキン・モントリオール大学教授は、日本は欧米とは異なる独自の中東和平への貢献ができると語る。日本人は第二次世界大戦中に、日本の同盟国ナチス・ドイツからの圧力にもかかわらず在リトアニア副領事だった杉原千畝氏などユダヤ人を救った人物がいるし、またイスラエル国家創設の道を開くことになった、パレスチナをイスラエル・パレスチナに分割する国連総会決議191号にも関わることがなかった。
また、日本はパレスチナ問題に関して、アメリカに常に従ってきたわけではないことをラブキン教授は指摘する。1973年の第四次中東戦争直後の「二階堂進官房長官談話」では、パレスチナ人の民族自決(パレスチナ国家創設)を支持した。さらに、1980年代、国会議員の山口淑子氏は、ヤーセル・アラファト率いるパレスチナ人指導部を交渉の正統なパートナーとして承認するために尽力し、1993年にイスラエルがオスロ合意でPLOを交渉相手と認める道を開いた。
弱者に対する同情や共感はイスラムという宗教の中の根本とも言ってよいだろう。
「汝、孤児を苦しめるな」(93章9節)「乞う者を叱りつけてはならない」(同10節)
「(神の審判を信じない者は)孤児を排斥し、貧者に食事を与えることを奨励しない者」(107章1~3節)「慈善を断る者」(同7節)などの章句がコーランにはある。
イスラムの宗教の根本概念は唯一絶対の神を信じ、この世に「正義」「平等」を実現することであり、困った人を助けるのは当然のこととされている。
イスラム世界に行って日本が評価されるのは、軍事力にモノを言わせるアメリカの戦争に協力することではなくて、教育・医療など彼らの社会福利に貢献する姿である。判官びいきの感情をさらに実際の国際協力の行動として実現し、いっそう発展させていけば、日本に対する中東イスラム世界からの評価はいやがうえにも上がるだろう。判官びいきとイスラムの弱者救済とは根底に共通の感情があり、日本人の心根は本来やさしいものだと信じている。
表紙の画像は「東日本大震災の犠牲者を追悼するガザの子どもたちの凧揚げ」
https://girlschannel.net/topics/4828638/9/
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