見出し画像

武力で人の心を制することはできない ―イスラエル“過去20年で最大規模の作戦”

イスラエル軍は3日、ヨルダン川西岸のジェニンの難民キャンプで「過去20年で最大規模の作戦」(NHK記事の表現)を実施し、パレスチナ人9人が死亡した。どうして「過去20年で最大規模」という表現になるのか不明だが、ジェニンに対する攻撃とすればということだろうか。イスラエルは2002年4月にジェニンに対して大規模な攻撃を行い、この時は10日間にわたる激しい戦闘で、パレスチナの武装勢力と市民が少なくとも52人、イスラエル兵が23人死亡している。

ジェニン位置 https://www.bbc.com/japanese/66094165

 イスラエルの軍事作戦とすれば、2014年7月から8月にかけてのガザ攻撃のほうがはるかに徹底的で、規模が大きかった。この時はパレスチナ人2143人が犠牲になり、そのうちの7割が女性や子どもを含む民間人だった。今回のイスラエルの攻撃ではおよそ500家族がジェニンの難民キャンプから避難した。ネタニヤフ首相は、攻撃は今回限りではないと述べ、米国はイスラエルの安全保障にとって必要な措置であり、ハマスやパレスチナ・イスラム聖戦などのテロリスト集団から国民を守る権利として攻撃を支持すると表明した。

 一昨年あたりからパレスチナ人の間で若い世代の新たな武装勢力「ライオンの巣」「ジェニン軍団」などが台頭してイスラエルに対する武装闘争を行うようになった。イスラエルが国際法を遵守してパレスチナ人との間で信頼関係を築かない限り、武力に訴える集団はパレスチナ人の間で絶え間なく現れることだろう。イスラエルはパレスチナ人家屋の強制立ち退きや破壊を行って東エルサレムやヨルダン川西岸のイスラエル人入植地を拡大するようになった。また、イスラエルの極右入植者たちはパレスチナ人に対する暴力をふるっている。さらに、イスラエルは2007年よりパレスチナ・ガザ地区に対する経済封鎖を継続し、ガザに対する空爆をたびたび行っている。今年1月にはイスラエルの極右政党が入閣する政府が成立した。極右のイタマル・ベン=グヴィール国内治安相は、イスラエルの安全のためにはパレスチナ人を殺すと言ってはばからないし、またエルサレムのイスラムの聖地であるハラム・アッシャリーフにユダヤの神殿を建設すると主張している。

パレスチナの武装集団

 若い世代の新しいパレスチナの武装勢力は和平や安寧を達成しないパレスチナ自治政府など既存の政治組織を信頼していないが、「パレスチナ解放人民戦線(PFLP)」からは支持を得て連携している。PFLPはかつてハイジャック作戦を行い、日本赤軍などとも連携していた左翼の政治・武装組織だ。イスラエルのパレスチナ人に対する人種差別(アパルトヘイト)的傾向が強まり、さらにガザ封鎖は16年も継続している。今年はイスラエル軍によって6月初めまでにパレスチナ人112人がヨルダン川西岸で殺害された。(Wafa news)

パレスチナ生まれの小説家ガッサーン・カナファーニーはパレスチナ解放人民戦線(PFLP)のスポークスマンとしても活躍しましたが、1972年7月8日にベイルートで車に仕掛けられた爆弾によって、姪とともに暗殺されました。 https://www.freeart-univ.org/arabic-language/

 若いパレスチナ人たちは新たな武装闘争に着手するようになったが、これらの運動がイスラエルの治安にとって新たな脅威となることは間違いなく、イスラエルは今回の攻撃のように、この脅威に対してあらためて注意やエネルギーを傾注していかなければならない。

 2005年に制作された映画「ミュンヘン」は1972年のミュンヘン・オリンピックの際のイスラエル選手・コーチが犠牲になった事件後に、イスラエルの治安・軍機関がイスラエルの安全保障のためにパレスチナ人指導者たちをヨーロッパ諸国やレバノン、キプロスなどで次々と殺害していく様子を描いている。この映画はパレスチナ人の心情も描いたために、ユダヤ系のスティーヴン・スピルバーグ監督はイスラエル右翼から「反イスラエル」との批判を受けた。映画「ミュンヘン」でスピルバーグ監督は暴力の連鎖がいかに意味のないものであるということを描きかたったと述べているが、現在のパレスチナの武装集団の台頭にもまさに言い得ることだと思う。イスラエルの暴力の行使がパレスチナ人の新たな暴力をもたらし、その応酬を果てないものにしている。

映画「ミュンヘン」

書きとめてくれ、

おれは アラブ人。

あんたがたは じいさん以来のブドウ畑と

おれが耕していた区割の土地を ふんだくった、

おれと子供たちみんなで耕していた土地だ。

(中略)

  おれは 民衆を憎まない。

  おれは だれからも盗まない。

けれどもだ、

  もしも おれが怒ったなら

  おれは わが略奪者の肉を食ってやる。

気をつけろ、おれの空きっ腹に、

気をつけろ、おれのむかっ腹に。

(マフムード・ダルウィーシュ、土井大助訳「身分証明書」より抜粋。

アイキャッチ画像はパレスチナ自治区ヨルダン川西岸のジェニンでは、イスラエル軍が作戦を実施し煙が上がった(3日)
https://www.bbc.com/japanese/66094165

いいなと思ったら応援しよう!