
19世紀から20世紀にかけてのアメリカ帝国主義の復活を図るトランプ大統領
2月3日に、日米が戦ったフィリピンのマニラ市街戦80年の追悼式典がマニラのキリスト教系のアダムソン大で開かれた。太平洋戦争のフィリピンの戦い(1944~45年)は日本に奪われたフィリピンを米国が奪還する帝国主義諸国間の戦争だったが、フィリピン防衛戦で日本軍の戦没者の総計は51万8000人、そのうち戦闘による死者は35%から40%、残りの65%~60%は病没だが、そのうち悪疫による死者は半分以下で、残りは餓死であった。(吉田裕氏)それに対して米軍戦死者は4万人近く、またフィリピン市民の死者はおよそ100万人と見積もられ、フィリピンの人々に多大な迷惑をかけた戦争だった。

米国関係者も独自に退役軍人などを中心に2月22日に戦没者の追悼式典が行われたが、そこにはフィリピンの人々への謝罪や反省の感情はなかった。式典でスピーチを行った「アメリカ合衆国戦闘記念碑委員会(American Battle Monuments Commission)」のチャールズ・K・ジュー事務局長は、「人類が知る限り最も強力な兵器システムは、自由のために戦うことを厭わない自由な人々だ」と述べ、「それがこの追悼の場のすべてであり、この式典のすべてである。」 と続けた。

米国の帝国主義はフィリピンをむしばんだ。米国がフィリピンを植民地にした米比戦争は、フィリピン市民の20万人が亡くなったほどの“絶滅戦争”で、その残虐ぶりは対インディアン戦争よりもひどかったとされている。ダグラス・マッカーサーの父親アーサー・マッカーサーが米比戦争の指揮をとったが、その配下にあるジェイコブ・スミス将軍は「捕虜は望まない。殺害して焼き討ちせよ。殺害や焼き討ちが多ければ多いほど、私は喜ぶのだ。米国に敵意をもって武器をもつ可能性がある者たちはすべて殺すことを望む。」と語った。(米国アーリントン国立墓地のサイトより)。フィリピンでは女性たちの人権が侵害され、マニラは「世界の売春センター」と形容されるほどだった。(The Anti-Imperialist Review)フィリピンは中国や日本に商品を輸出する拠点となり、またフィリピンはグアムとともに米国が東アジア、特に中国に進出するための軍事基地を提供した。こうした横暴な拡張主義が米国内では黒人社会における反帝国主義運動の誕生をもたらすことにもなった。

こうした米国の19世紀から20世紀にかけての帝国主義を復活させようとしているのがトランプ大統領だ。米国がガザ地区の所有権を獲得し、住民たちを追放し、ガザを「中東のリビエラ」に変えるというトランプ大統領の構想は、米国の大統領の中で最も暴力的と言われるアンドリュー・ジャクソン大統領(任期1829年~37年)やセオドア・ルーズベルト(任期1901~09年)を彷彿させるという声もあるほどだ。ジャクソンは生涯で300人の黒人奴隷を所有し、1818年にチカソー族と土地の売買交渉を行い、テネシー西部に土地投機を行い、メンフィス市の設立を行った3人の投機家の一人だった。また、大統領時代にジャクソン強制移住法(1830年)によって、ミシシッピ以東に住む先住民(=「インディアン」)を強制的に西部に移住させ、白人の移住を可能にした。セオドア・ルーズベルトが得意としたのは「棍棒外交」という手法で、軍事力で相手に要求を飲ませる手法をカリブ海地域でしきりに使った。1902年にキューバの独立を認めたものの、軍事力を背景に事実上の保護国にし、またパナマ運河の建設権を獲得した。トランプは、これらの大統領たちのように、軍事力や経済力をむき出しにして誇示することに非常に興味や関心を持っているようだ。

トランプ大統領は、ガザのリビエラ化構想を明らかにした記者会見で「ガザを米国が長期的にわたって所有し、それがパレスチナや、そしておそらく中東全体に大きな安定をもたらすと見ている」と語ったが、この発言とは真逆に、ヨルダンやエジプトがパレスチナ難民を受け入れればこれらの二国は不安定化することは明らかだ。パレスチナ人はヨルダン国民の7割とも見積もられるが、さらにパレスチナ人が流入すればヨルダンは国の性格を変えてしまう。トランプ大統領と会談したヨルダンのアブドラ国王の暗い表情が彼の心情のすべてを物語っていた。また、ガザ難民を受け入れる気がまったくないエジプトのシシ大統領はトランプとの会談自体を拒み続けている。

トランプ大統領は、ガザを米国の植民地として再建するという考えに何の問題も感じていないようだが、ガザ領有構想は「道徳的な羅針盤の完全な欠如」とも言われる彼の特異な精神状態に基づく。トランプによる帝国主義的発想は武力による領土併合を禁止する国連憲章に見られる第二次世界大戦後の国際秩序を否定するものであることは言うまでもない。
表紙の画像はトランプ大統領が敬愛するジャクソン大統領