世界はイスラエルに「殺しのライセンス」を認めない ―ヒズボラ最高指導者の殺害は中東地域をいっそう不安定にし、イスラエルを「パーリア(嫌われ者)国家」にする
イスラエル軍は28日、レバノンのシーア派組織ヒズボラ(神の党)の最高指導者ハッサン・ナスララ(ナスルッラーフ)師を殺害したと発表した。イスラエル軍の戦闘機は27日、ベイルートの南郊、通称ダヒエ地区の住宅に約10発のバンカー破壊爆弾を投下した。バンカー・バスター(地中貫通爆弾)は米軍がアフガニスタンの対テロ戦争の際に洞窟に潜むタリバン兵への対策として多用した。国連総会で演説したネタニヤフ首相は、自分たちは「屠殺(とさつ)場へ連れていかれる子羊」どころか、イスラエルは勝利しつつあると述べた。
レバノンのイスラム・シーア派組織の最高指導者ハッサン・ナスララ(ナスラッラー:1960年8月31日生まれ)は、レバノンの首都ベイルートの貧しいカランティーナ地区の食料品店の家庭に生まれた。
少年時代からイスラムを熱心に学び、1975年にレバノンで内戦が勃発すると、家族がベイルートから避難する中で、ナスララは、イランとシリアとつながりがあるシーア派の準軍事組織アマル(希望)に参加した。その直後にイラクのナジャフでシーア派神学を学ぶようになり、1978年にイラクからレバノンの留学生数百人が追放されると、レバノンに帰国し、アマルのベカー高原の司令官となった。
1982年にイスラエルがレバノンに軍事侵攻すると、アマルを離れ、1979年のイラン革命の影響を受けて創設されたヒズボラに参加することになった。ヒズボラとアマルとの戦いに参加する中で、軍事能力を発揮することになり、次第に指導者に上りつめていった。イランの宗教都市ゴムでシーア派神学を学んだ後、1989年にレバノンに戻り、1990年まで続く内戦に再び参加し、1992年に彼の前任者であるアッバース・アル・ムサウィ(1952~1992年)がイスラエルのミサイルで殺害されると、ヒズボラの最高指導者となった。
ナスララは、思慮深く、謙虚なふるまいでカリスマ性のある指導者となった。また、病院や医療クリニックなど広範な社会福祉ネットワークをつくり上げ、多くの人々の支持を獲得していった。アラブの研究者は、「アラブの人々は『カラーマ(尊厳)』を大事にし、そのために生きていると言っても過言ではない。」と語るが、イスラエルはこの「カラーマ」に配慮することなく、ガザやレバノンへの空爆や攻撃を継続している。アラブの人々の「カラーマ」に配慮も尊重もしないイスラエルの攻撃はアラブの人々から猛烈な反発を招くことになっている。イスラエルはヒズボラやハマス、イエメンのフーシ派、イラクの親イランの民兵組織「イラクのイスラム抵抗運動(IRI)」などの攻撃を受けるようになり、特にIRIはイスラエルの南部の港湾都市エイラトに対してドローン攻撃を行っている。
エイラト港にはイスラエルの戦争を支援する米国やイギリスの船舶までフーシ派による紅海やアラビア海での攻撃によって寄港が困難になっている。世界の海運情報を扱う「ワールド・カーゴ」のウェブサイトによれば、エイラト港は商業活動がなくなったために破産状態となり、エイラト港湾会社(Eilat Port Company)のギデオン・ギルバートCEOによれば、23年10月から24年6月までの8カ月間余りエイラト港への海運は実に85%減少した。この落ち込みでギルバートCEOは港湾事業費や、恒久的閉鎖を免れるために、イスラエル政府の財政支援が必要と語るようになった。このように、「抵抗の枢軸」のイスラエルへの攻撃はイスラエル経済を麻痺させるようになっている。
イスラエルの戦争が長引けば、イスラエル経済はさらに苦しくなることだろう。ヒズボラは2004年にイスラエルとの捕虜交換を実現し、さらにアラブ世界で名声を高めたが、2006年にレバノン南部からイスラエルを攻撃し、多数のイスラエル兵を殺害し、2名のイスラエル軍兵士を捕虜にとった。2006年のレバノン戦争は34日間継続し、およそ1000人のレバノン人が死亡したが、ナスララはイスラエルに対する勝利を宣言した。イスラエルが徹底的な勝利を収めることができなかったことによって、アラブ世界におけるナスララの名声はいっそう高まることになった。
イスラエルは7月末にもイラン・テヘランでハマスのハニーヤ最高指導者を殺害した。指導者を殺害しても新たな指導者が続々と現れ、結局指導者の殺害はイスラエルの安全に役立つことはない。レバノン主権を無視した標的殺害はイスラエルの国際社会におけるイメージを一層低下させ、国連機関などでのイスラエルの国際的孤立を深めさせることになり、イスラエルに対するヒズボラや、ハマス、イランなどの復讐心をいっそう強めるだけだ。イスラエルはますます世界の「パーリア国家(嫌われ者国家)」になりつつある。イスラエルがガザでの攻撃をやめない限り、イランを中心とする各地の武装勢力の同盟関係である「抵抗の枢軸」もイスラエルとの対話や宥和に動くことないだろう。
表紙の画像は【イスラエル軍が発表】ヒズボラ本部に大規模空爆…最高指導者・ナスララ師が死亡
https://www.youtube.com/watch?v=2b-nFpCAZlk
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