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かつて植民地主義支配を受けた国々はトランプのガザ・リゾート化構想に断固反対し、パレスチナと連帯する

 旧植民地から独立したアジア・アフリカ・ラテンアメリカの諸国はかつて「第三世界」と呼ばれていた。東西冷戦時代、第三世界には資本主義の第一世界、社会主義の第二世界への対抗軸としての期待がかけられた。日本ではかつてこの第三世界への共感が強くあり、たとえば、アルジェリアは反帝国主義闘争のシンボルとして、また「第三世界の旗頭」として日本でも評価され、1961年には独立戦争を支援する「日本北アフリカ協会」が国会議員の宇都宮徳馬、江田三郎、建築家の丹下健三などが中心になって設立され、全学連もアルジェリアの独立運動家たちを日本に招待して連帯を訴えた。

 第三世界を支配したヨーロッパ植民地主義、帝国主義(自国の利益拡大のために他国を支配する運動や思想、政策)の支配は「暴力」を媒介とするものであり、植民地や現地の人々はヨーロッパ植民地勢力を絶対悪と見なし、暴力で対抗していった。現在占領地で入植地を拡大するイスラエルはこのヨーロッパ植民地主義の悪しき伝統を引き継いでいるとしか言いようがない。

「暴力は、被植民者たちが自分たちの人間性を否定する抑圧者たち(ヨーロッパ人)を殺害することによって人間性を回復することができる手段なのだ。」-フランツ・ファノン(アルジェリア独立戦争のイデオローグ)

そして、植民地諸国では農民だけが革命的であることは明らかだ。なぜなら、彼らには失うものは何もなく、得るものはすべてあるからである。階級制度の外にいる飢えた農民は、搾取される者の中で暴力だけが利益をもたらすことを最初に発見する。彼らにとって妥協はなく、合意に達することは不可能である。植民地化と脱植民地化は単に相対的な力の問題である。 ーフランツ・ファノン https://www.azquotes.com/quote/344871


 ハマスの武装闘争を見れば、ファノンの言葉も説得力をもつのかもしれない。米国のトランプ大統領のガザ・リゾート化構想に激しく反発するのは「米国の裏庭」とも表現されるほど、米国の介入政策を受けてきたラテンアメリカ諸国だ。コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領は、トランプ大統領のガザ構想を「新植民地主義的」と形容し、ラテンアメリカは人々を祖国から追い出そうとするいかなる帝国主義的政策も支持しないと表明した。また、チリのボリッチ大統領はトランプ構想を「さらなる不安定化への危険な一歩であり、パレスチナ人の尊厳に対する侮辱だ」と非難した。さらに、ブラジルのルラ大統領はガザからのパレスチナ人の強制的な追放は人権の重大な侵害となることを強調した。これまでも中東への欧米諸国の介入を批判してきたルラ大統領は、パレスチナ人の自決権に対するブラジルの支持の立場を再確認し、住民の強制的な追放の意図を強く非難した。右派政治家と目されるアルゼンチンのミレイ大統領も、アルゼンチンは国際法とすべての国の領土保全を擁護するとしてトランプのガザ構想に反対の意向を表明している。

グスタボ・ペトロ・コロンビア大統領 https://www.euractiv.com/section/global-europe/news/colombia-elects-former-guerrilla-petro-as-first-leftist-president/


 ラテンアメリカはパレスチナ人の権利を支持してきた長い歴史がある。アルゼンチン、ブラジル、チリ、ベネズエラなどの国々はパレスチナを主権国家として承認し、イスラエルの政策をしばしば批判してきた。多くのラテンアメリカの指導者は、自国への植民地主義による支配や介入の歴史とパレスチナ人が直面している苦難との間に類似点を見出している。
 1973年9月11日、米国のCIAの介入で、民主的に選出されたチリのアジェンデ政権は崩壊したが、米国の干渉に憤ったチリの詩人パブロ・ネルーダは次の詩を遺した。

「腹黒い奴ら」
ニクソンと フレイ(*l)と ピノチェト(*2)ども
ポルダベリ(*3)と ガラスタソ(*4)と パンセル(*5)ども
今日 この1973年9月のなんという酷(むご)たらしさ
おお 貪欲なハイエナども
多くの血と火でかちとった旗をかじりとるネズミども
大農場でたらふく満腹している奴ら
極悪な略奪者ども
干回も身を売った腹黒い奴ら
ニューヨークの狼どもにけしかけられた裏切者ども
わが人民の汗と涙を絞りとり
わが人民の血で汚れた機械ども
アメリカのパンと空気を売りこむ売春屋ども
淫売宿のボスども ペテン師ども
人民を拷問にかけむちうち飢えさせる法律しかもたぬ死刑執行人ども!
(1973・9・15)
*1 フレイ=元チリ大統領、 *2 ピノチェトー=チリ軍事評議会議長、 *3 ポルダベリ=ウルグアイの独裁者、 *4 ガラスタソ=ブラジルの独裁者、 *5 バンセル=ボリビアの独裁者

ネルーダ最後の詩 https://burakusabe.exblog.jp/21126033/


 1月31日、南アフリカ、マレーシア、ナミビア、コロンビア、ボリビア、チリ、セネガル、ホンジュラス、ベリーズの代表がハーグに集まり、イスラエルに国際司法裁判所の命令や国際法上の義務を果たすことを求め、またICCの逮捕状をICCの加盟国として遵守することを誓約した。
 ナミビアとマレーシアはイスラエルに武器を輸送する船舶の港湾入港を阻止し、コロンビアはイスラエルへの石炭輸出を停止した。またコロンビアとボリビアも、ガザに対する壊滅的な戦争に抗議するためにイスラエルから大使を召還したが、これらの個々の動きを統合し、あらためてイスラエルに国際法を遵守させ、イスラエルへの武器供与停止のための国際的協力体制をつくろうとするのがハーグ・グループだ。

ハーグ・グループの発足 https://x.com/ProgIntl/status/1885716581684011180


 米国などからイスラエルへの武器供与は様々なサプライチェーンを利用して行われるが、ハーグ・グループの加盟国は自国の港湾にイスラエルへの武器を輸送する船舶の停泊を認めないなど、そのサプライチェーンを遮断して、イスラエルに武器が到達しないようにすることも目指し、さらにグループの拡大を目標としているが、その中心になるのはかつて植民地主義支配を受けたかつて「第三世界」と呼ばれた国々だ。冒頭で述べたように、日本には植民地の独立に強い共感があったが、トランプなど欧米との同盟を強調して、「植民地勢力」と見なされないようにしたいものだと思う。

表紙の画像はブラジルのルラ大統領
ブラジル・ルラ大統領
パレスチナ人の権利を強く支持する
https://x.com/OnlinePalEng/status/1610282078465032194

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