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三権分立は民主主義の根幹 ―日本は「無知」から「有知」に変化したはずだが・・・
財務省の文書改ざんを行ったことを苦にして自死した赤木俊夫さんの妻雅子さんが改ざん関連文書の開示を請求していたが、14日、大阪地裁は請求を棄却した。
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4日、最高裁は沖縄の辺野古基地の、設計変更を承認しなかった県に対する国の是正指示の違法性が争われた訴訟で最高裁は国の指示を適法とする判断を下した。判事5人の一致した判断だという。最高裁が国の意向に従って辺野古基地建設を容認、支持しているかのような印象を強く与えるものだった。
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日本の司法は政治から独立しているのかという疑念は随分と以前からあった。日本国憲法でも三権分立が民主主義の根幹であることが明記されている。三権が分立していなければ真の民主主義とは言えないことは中学生でも学校で教わるだろうが、日本ではその三権分立の実態がますます怪しくなっている。日本では行政権は内閣に帰属することになっているが、立法権をもつ国会で議論しなければならない重要なことが内閣の閣議決定で決まってしまうケースが多くなっている。集団的自衛権、反撃能力、防衛費倍増など、これに最高裁が正当性を認めることになれば、日本には三権分立は存在せず、中東などに見られる長期にわたる独裁政治となんら変わらないことになる。
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三権分立は政府権力が恣意的に行使されることを防ぐために、行政・立法・司法の三権をそれぞれ別個の機関に委ねるもので、絶対王政に対して市民的自由を擁護するために18世紀の啓蒙主義の時代にモンテスキューによって唱えられたものだ。近代国家の重要な政府原理の一つとして確立、重視された。
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啓蒙主義は、18世紀の西ヨーロッパ、特にフランスで起こった教会的権威や封建思想からの人間の解放を目指した思想的潮流で、1789年のフランス革命にもイデオロギー的背景を提供した。「啓蒙」の「蒙」とは無知蒙昧の「蒙」であり、啓蒙主義には人々を無知から有知に、つまり知識ある人々に変えようとする性格があった。西ヨーロッパの封建社会の下で、キリスト教会の権威の中に押し留められていた人々に人間や社会、世界、自然の真実を教え、真理に目覚めさせる運動が啓蒙主義だった。啓蒙思想はフランス・ブルボン朝の旧体制(アンシャンレジーム)の中に置かれた人々がいかに人間の解放からほど遠い存在であることを強調し、旧体制を批判、否定する運動でもあった。また、三権分立を最初に実現しようとしたのはアメリカ合衆国憲法だった。
啓蒙時代の潮流を日本に置き換えて考えれば、戦前を「蒙の時代」とすれば、日本国憲法によって日本国民は無知から有知に変わった。明治の大日本帝国憲法でも三権分立の考えはあったが、天皇が国の権限のすべてを握って、臣民(天皇に支配される人民=国民)の権利は法律の範囲内で一応保障されるものだった。天皇や政府の力が強く、三権分立は実質的には存在せず、権力を抑制することができなかったために、戦争に突き進んでいった。
イスラエルでも今年1月のネタニヤフ政権の成立後、最高裁判所の決定を議会がくつがえすことができる司法改革をめぐって反政府デモが繰り返され、また米国バイデン政権も司法改革案を撤回するように求めるなどネタニヤフ政権の孤立は明らかだった。司法改革は7月に議会(クネセト)で強行採決されたものの、ネタニヤフ首相は国内の反対の動静を見て司法改革を進めない考えを明らかにしている。イスラエルの場合は、世論や米国の圧力が功を奏した格好となった。
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日本でも2020年に示された検察庁法の改正案は、検事総長を除く検察官の定年を63歳から65歳に引き上げ、定年を迎えても、内閣や法相が必要と認めれば、最長で3年間、ポストに留まれることなどを内容としていた。結局、この改正案は反対が強く廃案になった。
ペルーの作家マリオ・バルガス=リョサは2012年12月のノーベル文学賞受賞演説「読書と虚構を褒め称えて」の中で次のように述べている。
「独裁というものがひとつの国にとって絶対悪を意味し、暴虐と腐敗の温床となるという私の信念、独裁というものが癒すのに長い時間を必要とし、未来に禍根を残し、何世代にもわたって消えることのない悪習を創りだし、民主主義の再建を遅延させるほどの深い傷を残すという信念に基づいた行為です。」