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深まるイスラエルの国際的孤立と「シオニズムの終焉」

 イスラエル軍によるゴラン高原の緩衝地帯への進駐やシリア攻撃などについてはトルコやアラブ・イスラム諸国から強い非難の声が上がっている。

ゴラン高原の国連兵力引き離し監視隊( UNDOF ) https://www.japantimes.co.jp/news/2024/10/16/world/israel-demining-golan-hezbollah/

 Times of Indiaは、Erdogan Speech LIVE: Turkish President Declares War Against Israel Over Syria's Golan Occupation?(トルコのエルドアン大統領のスピーチ・ライブ:トルコ大統領はイスラエルのゴラン高原占領についてイスラエルに宣戦布告する?)というYouTubeをアップした。その中でエルドアン大統領は、「今後シリアが分裂することを許すわけにはいかない。我々はシリアが再び紛争地域になることにはまったく同意できない。」と述べ、トルコ外務省は、「シリア国民が長年望んできた平和と安定を達成する可能性が浮上したこの微妙な時期に、イスラエルは再びその占領的な精神を露わにしている」と声明で語っている。イスラエル軍のシリアへの侵入は1973年の10月戦争以来のことだ。イスラエルの戦車はダマスカス南西25キロのカタナにまで到達した。10日、国連シリア特使もイスラエルに対し、シリア国内での軍事移動と爆撃を停止するよう求めた。

 米国はイスラエルのゴラン高原占領を擁護するものの、イスラエルの国際的孤立はいっそう明らかになっている。

欧米のヒューマニティに関する神話はガザで終わった https://x.com/RyanRozbiani/status/1866784994380701724/photo/1

 イギリス・エクセター大学教授のイラン・パッペ(歴史学、イスラエル人、1954年生まれ)は、シオニズムが終焉を迎える一つの要因として国際的孤立を挙げている。パッペはイスラエルが徐々に「世界ののけ者国家」となり、この傾向は昨年10月7日のハマスの奇襲攻撃以来、イスラエルがガザで大量虐殺を行っていることによって強まった。パッペによれば、イスラエルは大量虐殺を犯している可能性がある、ラファでの攻撃を停止しなければならない、イスラエルの指導者は戦争犯罪で逮捕されるべきである、などの最近の国際司法裁判所と国際刑事裁判所の判決は、単にエリート層の意見を反映したものではなく、世界の市民社会の意見に耳を傾けるものであり、これらの判断に見られるように、イスラエルに対する批判の声は国際社会でますます高まっている。

パッペ『パレスチナの民族浄化』

 パッペはシオニズムが崩壊する要因として1.イスラエル国内の極右の台頭とそれに辟易とする人々がイスラエルを離れること、2.イスラエルの経済危機、3.国際的孤立、4.世界中でパレスチナとの連帯を唱えるユダヤ人が増加しているなど世界のユダヤ社会の変化、5.イスラエル軍の弱体化、6.パレスチナ人の間で若い活力が蘇っているという6つの指標を挙げている。

 イスラエル経済は23年第4四半期に20%近く落ち込み、トルコやコロンビアなど一部の国から経済制裁を受けた。イスラエルがヒズボラとの戦争を行い、ヨルダン川西岸での軍事行動を強化した結果、イスラエルの経済負担は増すばかりだ。イスラエルの税収全体の80%を支払っている2割の人々は国外に資本を移すようになったとパッペは戦争によるイスラエル経済の負担を説明するが、そして今度はシリア攻撃だ。イスラエルの戦費の負担が増すばかりであることは容易に想像できる。

 イスラエル軍の弱体ぶりは昨年10月7日のハマスによる奇襲攻撃を許したこと、米国の軍事力にますます依存するようになったこと、またイスラエル軍が弱体していることは従来兵役がなかった超正統派に対して徴兵を行うことにも見られている。超正統派に対する徴兵はイスラエル社会の分裂をもたらすことになった。(Ilan Pappé, The Collapse of Zionism — Sidecar 21 June,2024)

徴兵制に反対する超正統派 https://www.pbs.org/newshour/world/ultra-orthodox-stage-mass-protest-jerusalem?fbclid=IwY2xjawHIV-dleHRuA2FlbQIxMAABHfNpjZ0RcLXoeAtofT09ril6iTFwREziwZL2QVexKWbUW9dmws3iBhM-Lg_aem_X5OC55MOmhyv4RBlVYukoQ

 イスラエルがハマス、ヒズボラ、さらにはシリア国内の武装勢力との消耗戦が続けば、イスラエル社会の疲弊はいっそう明らかになる。イスラエルはシリアで新たな戦端を開いた感があるが、昨年10月7日のガザでの戦争開始以来、ハマスさえも屈服させることができていない。イスラエルで最も尊敬されている歴史家の一人、ベニー・モリスは、「今日、(地中海)海とヨルダン(川)の間にはユダヤ人よりもアラブ人の方が多いのです。全領土が、アラブ人が多数派を占める一つの国家になることは避けられません。イスラエルは依然として自らをユダヤ人国家と呼んでいますが、権利を持たない占領された人々を我々(イスラエル)が支配する状況は、21世紀には持続できません。」と述べ、30年から50年の間にパレスチナ人がイスラエルを圧倒することを予言している。

ベニー・モリス https://www.latimes.com/entertainment-arts/books/story/2023-11-27/the-author-of-1948-on-the-mistakes-palestinians-made-in-israel-from-the-very-start

表紙の画像はイラン・パッペ
https://mediorientedintorni.com/index.php/2023/10/29/biography-and-bibliography-of-ilan-pappe/?lang=en


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