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ロサンゼルスの山火事とガザ戦災に関する米国の「二重基準」
ロサンゼルスの大規模な山火事は、鎮火進捗率はいまだに低く、高級住宅街では8%という報道もあるくらいだ。米国では山火事が地球温暖化の影響もあって頻繁に発生するようになったにもかかわらず、ロサンゼルス消防局への予算は24年に1760万ドル(28億円相当)の予算の削減を受けた一方で、バイデン政権は3日、イスラエルへの80億ドル(1兆3000億円近く)相当の武器援助を明らかにした。国内の災害対策費よりも対イスラエル支援に重点を置く米国は政策の優先順位を間違えているとしか言いようがなく、タックスペイヤーである米国民は政府の対イスラエル支援、政府支出の矛盾に関心をもつべきだ。(ちなみに日本の消防庁の年間予算は137.3億円〔令和6年度〕、オスプレイ1機は242億円〔2023年〕で、17機購入)
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中東イスラム世界のSNSではロサンゼルスの山火事に対する同情的な書き込みがある一方で、ロサンゼルスとガザの惨状への米国政府の姿勢に「二重基準」があることに反発が広がっている。ロサンゼルスの火災に重大な関心をもつようになった米国政府はガザでの戦災にほとんど関心がないかのように、イスラエルにはハマスの攻撃があった23年10月7日から昨年9月30日までに230億ドル(3兆6000億円ぐらい)の軍事支援を行い、その結果が4万5000人の死者、11万人の負傷者、1万1000人の行方不明者、190万人の難民化をもたらした。米国のイスラエルへの軍事支援がガザでの被害拡大の最大要因であることは疑いがない。
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俳優のジェームズ・ウッズはロサンゼルスの山火事被害を受け、自宅を失った有名人として注目されているが、彼は#KillThemAllのハッシュタグとともに、イスラエルへのガザ空爆を支持し、「停戦なし、妥協なし、容赦なし」とXに書き込んだ人物だ。ガザの住民たちは米国の贅沢な邸宅に住み、安全な環境の下で暮らす人々によって、根絶やしにされそうになっている。
ロサンゼルスの山火事で注目されているのは、鎮火に動員されている消防士約400人が刑務所の受刑者たちで、時給5ドル以下で活動している。裕福なロサンゼルス住民たちの中には私的に消防士たちを雇い、自宅への延焼を免れようとする者もいる。ロサンゼルスは富の格差が著しく、焼け落ちる貧困層の住宅事情についてはあまり紹介されることがない。山火事はロサンゼルスをはじめとする米国社会の矛盾を映し出すことにもなっている。
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イスラエルのガザ攻撃は多くの二酸化炭素を排出することになり、気候変動に悪影響を及ぼしている。2024年の最初の120日間だけでも42万~65万2000トンの二酸化炭素が排出され、気候変動に脆弱な26か国と地域の年間二酸化炭素排出量を上回る。国連は、民間住宅、病院、学校を含む15万6000~20万棟の建物が被害を受けたり破壊されたりしたと推定されている。イギリスのクイーン・メアリー大学が実施した調査によるとこれらの建物の再建には4680万~6000万トンの二酸化炭素排出量が発生すると予想されており、これは135以上の国と地域の年間排出量に相当するという。米国が支援するイスラエルのガザ攻撃は地球環境の悪化をもたらしているが、そればまわりまわって米国の災害被害をいっそう深刻にする一因ともなっている。まさに因果応報の世界である。
ガザは長期にわたる経済封鎖や、度重なる戦争によって、国際環境NGOのグリーンピースによると、今や「居住不可能」というレベルを超えているだけでなく、「今後何世代にもわたって居住不可能」な状態が続くという。国連環境計画(UNEP)は、ガザの水と衛生は崩壊したと昨年6月に出した報告書で宣言した。「沿岸地域、土壌、生態系は深刻な影響を受けている」と報告書は続けている。
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現在、ガザのほぼ全域が破壊されている。ゴミは15カ月間山積みになっているが、それを効率的に処理する施設はひとつもない。病気は蔓延し、病院はすべて爆撃で破壊されたか、焼け落ちたか、ブルドーザーで破壊された。病人の多くは医者に診てもらうことなくテントの中で死んでいく。イスラエルは23年10月から24年9月の間に512の医療施設を攻撃し、1000人以上の医療従事者を殺害した。
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環境保護や二酸化炭素排出について精力的に警告している欧米諸国が、イスラエルに武器を供給したり、進行中のジェノサイドに対して沈黙したりすることで、ガザでの環境破壊がいっそう深刻になっていることは不可解なことで、それがロサンゼルスの山火事被害など世界の災害をいっそう大規模なものにする一因となっている。
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表紙の画像はロスの山火事