ヒズボラ、イスラエル軍と交戦 ―ヒズボラにてこずるイスラエル軍
レバノンのシーア派・イスラム組織(政党でもあり、武装部門をもつ)は、25日、イスラエルに対して大規模な攻撃を行った。パリ・オリンピック期間中の7月30日にイスラエルがレバノンのシーア派組織ヒズボラの作戦本部トップのフアド・シュクル司令官を殺害したことへの報復と見られる。国連は6月末時点のイスラエルの国内避難民を9万人と見積もったが、テルアビブのベングリオン空港は国外に避難する人々でごった返して混乱するようになっている。
レバノン国境に近いキリヤット・シュモナは人口約24,000人の町だが、現在暮らすのは1、500人に過ぎない。町の銀行やショッピングモールは閉鎖され、住民たちはイスラエル各地のホテルなどに避難し、政府からの補助金を得て生活をしている。国内避難民の増加もイスラエルの財政負担になっていることは間違いない。イスラエル北部の入植地も放棄され、やはりレバノン国境に近い入植地メトッラでは30%から40%の入植者たちは帰還しないだろうと入植地の指導者は述べるようになった。ヒズボラの指導者や司令官などを殺害するイスラエルの措置がヒズボラの活動を先鋭化させ、ヒズボラはイスラエルの存立にとっての脅威となっている。イスラエルはヒズボラとの戦闘がない期間は観光産業などの収入があったが、和平の報酬を確認しなければならないだろう。
ヒズボラは、昨年10月7日にハマスの奇襲攻撃があってイスラエルがガザに報復攻撃を開始すると、その翌日にイスラエルに対する越境攻撃を行った。イスラエルがシュクル司令官を殺害したのは、ヒズボラがゴラン高原のドルーズ派の村をロケットで攻撃し、12人を死亡させたことの報復だと説明している。
ヒズボラは、イスラエル軍にとって脅威となってきた。2006年にはイスラエル軍兵士2人がヒズボラに誘拐され、イスラエル軍はその奪還のために、レバノン侵攻を行ったが、結局2人は遺体となって、5人のヒズボラの兵士との交換で返ってきた。この2006年のレバノン戦争ではイスラエル軍兵士121人が死亡し、1、244人が死亡した。
ヒズボラのロケットなどによる攻撃によって、イスラエルとヒズボラの本格的戦闘に至ることが懸念されている。無人飛行機の性能や技術を発達させているヒズボラはイスラエルの安全保障にとってハマス以上の重大な脅威であることは間違いない。イスラエルでは、国家のために自己犠牲を払った人には、国家も犠牲を払わなければならないという考えがあり、徴兵制のイスラエルでは捕虜となった兵士はどこの家庭でも起こりうると考えられ、兵士の解放に政府は尽力するところを見せなければならない。
パレスチナでは男性人口の実に40%が拘禁されたり、投獄されたりした経験がある。イスラエルの刑務所には常に数千人のパレスチナ人たちが収容されている。投石しただけでも最低3年、最大20年の刑が科せられる。イスラエルの行政拘禁はイスラエルの人権団体ブツェレムによれば、「裁判や起訴なしに、ある人物が将来の犯罪を犯す計画がある。行政拘禁下での被拘禁者の80%近くは、6カ月以上拘禁される。イスラエルは安全を優先し、パレスチナ人は解放されることを切望している。
ヒズボラの兵器の中で特に発展したのが、ヒズボラのISR(諜報・監視・偵察)無人飛行機で、イスラエルの領空を侵犯するようになり、イスラエル領の奥深くまで偵察を行い、攻撃目標に関する情報を集めるようになっている。ドローンによるヒズボラの偵察活動は、イスラエル北部のラマト・ダヴィド空軍基地、ハイファのイスラエル海軍基地、さらにはイスラエル海軍の特殊部隊「シャイテット7」の軍事インフラも含まれていた。
ヒズボラのISR無人飛行機は、精密攻撃のために標的の精確な位置情報をロケット、ミサイル、自爆ドローンなどによる攻撃のために提供するようになっている。ロシア軍もウクライナでISR無人飛行機とミサイル部隊との連携でウクライナ軍のパトリオット・ミサイルを破壊したと見られているが、ヒズボラはロシアのウクライナでの戦闘を参考にしている可能性がある。進化するヒズボラの無人航空機の能力は、ヒズボラが保有するとされる15万発のロケットとともに、イスラエルの安全にとって重大な脅威となり続けるに違いない。
表紙の画像はレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘員=5月10日、ベイルート(EPA時事)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024082500305&g=int