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ベルリン国際映画祭 ―「二度とパレスチナ人の命を犠牲にしてはならない」
20日、ベルリン国際映画祭で、香港のジュン・リー監督は、映画祭をボイコットしたイランの俳優エルファン・シェカルリーズ氏の声明を読み上げた。シェカルリーズ氏は、「二度とパレスチナ人の命を犠牲にしてはならない」というメッセージの中で、ドイツ国民にパレスチナに関する言論の自由のために闘うよう呼びかけ、ドイツはますます抑圧的で権威主義的な政治環境になっていることを批判した。シェカルリーズ氏は、パレスチナ人が直面している組織的な暴力と避難にドイツ政府や映画祭が一役買っていると非難した。
以下がリー監督が代読した文章の全文だ。
「あなたがたがこの映画をご覧になったように、数百万人のパレスチナ人がイスラエルの野蛮な入植国家において呻吟している。欧米諸国はそれに財政支援を行い、ドイツ政府は、ベルリン国際映画祭を含む文化団体とともに、何らかの形でアパルトヘイト、ジェノサイド、残酷な殺害、パレスチナ人の抹殺に貢献している。「ジェノサイドにノーを!」ドイツ国民はパレスチナについて語る時に言論の自由のために闘い続けてほしい。権威主義的、ファシスト的、恐ろしい雰囲気の中で。私たちの映画は「自由」「表現」「解放」に関するものだ。我々は全員が自由になるまで自由ではない。この映画はパレスチナで殺害された父親、母親、子どもたちに人々に捧げます。「ネヴァー、アゲイン」はパレスチナ人の命も含みます。ヨルダンから地中海までパレスチナ人は自由です。」
リー監督の行動やシェカルリーズ氏の見解は、イスラエル支持について何の疑問もないようなドイツ社会に一石を投ずるものだった。ドイツではイスラエルを批判することが「反ユダヤ主義」と解され、イスラエル批判が許容されなくなっている。ガザ戦争を通じて、ドイツは世界で最も言ってよいほど、イスラエル批判を認めない国になった。
一部のドイツの地方当局は、親パレスチナ人のデモを全面的に禁止し、抗議者を恣意的に拘束し、パレスチナ人との連帯を表明した外国人に対して国外追放の可能性を警告した。ドイツの内外の人権団体は、これらの措置は表現の自由と平和的な集会の権利を侵害していると主張している。あたかも、パレスチナ連帯のデモに参加した大学生の留学生ビザを取り消し、国外追放すると発表した米国のトランプ大統領の措置のようだ。
ドイツ系ユダヤ人の哲学者のハンナ・アーレントは、「悪の凡庸さ」という言葉を使って平凡な人間が行う悪こそ世界最大の悪だと説いた。考えることを放棄することによって、誰もがユダヤ人虐殺に加担したアドルフ・アイヒマンのような人間になってしまうと彼女は主張したが、4万8000人以上のパレスチナ人が殺害されてもイスラエルを支持する現在のドイツ社会はアーレントが強調した「悪の凡庸さ」のようだ。
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イスラエルがパレスチナ人を餓死させたり、渇きで死なせたりしていると非難することを「反ユダヤ主義」と断定し、ガザの医療システム、教育システム、200万人以上の人々の家屋、さらには図書館、教会、病院、学校、大学、史跡などのイスラエルによる大規模な破壊を無視するドイツの行動は、パレスチナ人が無権利の人々と考える場合によってのみ可能だろう。
2月8日付で医学雑誌『ランセット』に掲載された論文では、2023年、ガザの平均寿命は75.5歳であったのが、現在ガザの平均寿命は40.6歳に落ち込んでいるが、それほどイスラエルのガザ攻撃は過酷なものだった。平均寿命の低下は、イスラエルが子どもたちの命をいかに多く奪ったかを示している。
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1953年、ドイツはホロコーストの生存者個人に対してではなく、兵器を含む工業製品の形でイスラエル国家に賠償を行い始めた。ドイツが戦後のユダヤ人に対する道徳的義務を狭く解釈したことで、ドイツではイスラエルを批判することが「反ユダヤ主義」と解されるようになった。ドイツではイスラエルを批判するユダヤ人の声さえも疎外させるほどになっている。
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ドイツは、パレスチナ人の人権を擁護するドイツ人の自由を侵害すべきではなく、また、イスラエルに批判的な微妙な議論を許すべきであると同時に、また国内のユダヤ人とイスラム教徒のコミュニティを保護することを考えていくべきだ。ドイツのイスラエル支持の姿勢はイスラム教徒に対する偏見をも煽り、23年、10月7日のハマスの奇襲攻撃によって、ドイツにおけるヘイトクライムは22年から非政府組織の調査によれば、114%増加した。
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ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、2019年から23年にかけてイスラエルが輸入した主要な武器のうちドイツは30%を占めた。ドイツ政府は、イスラエルによるガザ戦争が戦争犯罪に相当するとか、国際法に違反するとかを一切認めていない。国際法は、自衛と集団的懲罰とを明確に区別しているが、集団的懲罰の様相を強めるイスラエルのガザ戦争に、ドイツは明らかに加担している。ドイツ政府は、戦争犯罪に利用される恐れがあるイスラエルへの武器移転を停止しなければならない。
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ガザ戦争におけるイスラエルにへのドイツの絶対的な支持は、特に中東でのドイツの評判を著しく傷つけ、アラブ・イスラム世界の世論はドイツを信頼しなくなっている。ドイツのソフトパワーは著しく衰退し、ドイツは第二次世界大戦後、文化的、経済的、政治的、人道的な関与によって何十年にもわたって築いてきた信頼を損なっているが、日本の中東外交も対米追従一辺倒で、中東イスラム世界での日本の良好なイメージを低下させてはならないとドイツの姿勢を見てつくづく思う。
表紙の画像はジュン・リー監督