コロンビア大学の学生たちは歓喜する ―シャフィク学長の辞任
昨年10月7日以来のイスラエル軍のガザ攻撃によって死者がついに4万人を超えた。10月7日以来のイスラエルのガザ攻撃は、長期的に見れば、イスラエルのデメリットとなったことが多い。パレスチナ社会の結束は強化され、イスラエルの国際的孤立は進んだ。アラブ諸国はイスラエルとの関係正常化から離れ、グローバルサウスの国々はパレスチナに同情するようになった。ヨーロッパでもイスラエルの過度な攻撃に対する反発があり、スペイン、ノルウェー、アイルランドの3カ国はパレスチナ国家を承認した。米国でもイスラエルに対する評価が明確に分かれるようになり、キャンパスではガザでの即時停戦や、軍需産業からの投資撤退を求めるキャンプが張られるようになった。
米国ではコロンビア大学のネマト・シャフィク学長は、ガザ戦争をめぐる学生たちによる抗議行動に対応しきれないことを理由に14日、辞任を発表した。シャフィク学長は、自身の在任中が「私たちのコミュニティ全体での意見の相違を克服するのが難しい混乱の時期でもあった」と述べた。4月、シャフィク学長はニューヨーク市警の警官たちのキャンパスへの入構を求め、大学の建物を占拠していた約100人の学生が逮捕されることになったが、学生を逮捕するという事態は、コロンビア大学ではベトナム反戦運動以来のことだった。
この動きは、米国とカナダの数十の大学で他の抗議行動を刺激し、ガザの避難民たちと同様にキャンプを張ってイスラエルのガザ攻撃を抗議し、パレスチナ人と連帯する運動は日本の大学キャンパスなどにも拡がっていった。
世界的にパレスチナに対する同情が拡がったのは、イスラエルのネタニヤフ政権が極右政党の意向を汲み取って強硬な政策をとっていることがその背景にある。8月14日、イスラエルのスモトリッチ財務相は、ヨルダン川西岸での新たな入植地建設計画を発表し、これがパレスチナ国家を承認する「危険な考え」との闘争の一環であるという考えを明らかにした。イスラエルは、ヨーロッパのスペイン、ノルウェー、アイルランドがパレスチナ国家を承認したことに強く反発し、ヨーロッパ諸国があっという間にパレスチナ国家承認で一致していくことに強い懸念がある。イスラエル政府はその2カ月前の6月にも、イスラエル政府が無認可のままに進められていた5つの入植拠点を合法化したことを明らかにしたが、極右の政治家たちはヨルダン川西岸と、旧約聖書の結びつきや、イスラエルの古代史を根拠に入植地拡大を合法化している。
イスラエルの極右政党「ユダヤの力」を率いるイタマル・ベングビール国家治安相は、イスラムの第三の聖地ハラム・アッシャリーフ(神殿の丘)で礼拝する権利を訴え、13日に神殿の丘に押し寄せ礼拝を行った。
イスラエルのユダヤ教超正統派の政党ユダヤ・トーラ連合はメシアの到来以前に神殿の丘で礼拝するのは不敬虔だと主張し、これに反対を唱えている。また、ユダヤ・トーラ連合は、イスラム第三の聖地で礼拝することは、イスラエルの近隣諸国との関係や、世界18億人のムスリムとの関係を悪化させると訴え、ネタニヤフ政権からの離脱の可能性も示唆するようになった。超正統派と、ネタニヤフ政権の極右との争点はエルサレム問題だけではなく、徴兵制をめぐっても発生していた。ネタニヤフ政権はそのかじ取りによっては分裂しかねない状態に陥っている。
表紙の画像は「8月14日、米コロンビア大学のネマト・シャフィク学長(写真)が、辞任した。写真は米ワシントンで4月撮影(2024 ロイター/Ken Cedeno)」
https://jp.reuters.com/world/us-politics/P3ZAXOJRNBLJJBQGG5WEMFASJA-2024-08-15/