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ユダヤ神殿の第3の破壊? 分裂するイスラエルの国家・社会の危機

 イスラエル政府の極右閣僚たちは、ガザ戦争勝利のために、人質を犠牲にしてもやむを得ないと公然と表明するようになった。むろん、人質の家族がこのような考えを容認することはなく、イスラエル社会の分断はいっそう進んでいる様子だ。極右勢力は国家のために犠牲になることを称賛するようにもなったが、このような考えがユダヤ教の教義とは何の関係もないことは言うまでもない。


 イスラエルの極右勢力は、議会の決議によって最高裁の判決を覆すことができる司法改革を進めようとしているが、それはイスラエルの最高裁がヨルダン川西岸の入植地拡大について抑制的な姿勢を示してきたからだ。彼らが唱える司法改革は、かりにネタニヤフ首相が汚職で有罪判決を受けても、それを議会の決議で無効にできることにもなり、ネタニヤフ首相と極右勢力の「同盟関係」は一段と進んでいる。

即時停戦を求めるイスラエル人 https://www.972mag.com/israeli-protest-gaza-war-repression/



 イスラエルの極右勢力は、永続的とも見える戦争に適応するために、国民に自己犠牲の精神を強いるようになっている。イスラエル政府は人質の解放交渉を行っているとしているものの、人質は断続的に犠牲になり続けている。昨年2月にハマスはガザ戦争が始まって以来、イスラエル軍の攻撃によって33人の人質が殺害されたことを明らかにしたが、その後も比較的最近ではイスラエル人人質女性1人がガザ北部での戦闘中に死亡するなど人質の安全に配慮した攻撃を行っているようにはとても見えない。

 エルサレムは紀元前997年頃、ヘブライ王国のダヴィデ王によって都とされたが、次のソロモン王の時にヤハウェ神殿(=第一神殿)が建てられた。この第一神殿は、前586年に新バビロニアのネブカドネザル王によって破壊され、ユダヤ人たちはバビロンに連行されて囚われの身となった(=バビロン捕囚)。このユダヤ人たちはおよそ50年囚われた後に、アケメネス朝のキュロス2世が新バビロニアを滅ぼすと、紀元前538年に解放されてパレスチナの地に戻ることが許され、エルサレムの神殿を再建した(=第二神殿)

人質家族は救出を訴えるが・・・ https://www.972mag.com/moshe-yaalon-ethnic-cleansing-gaza/



 ローマ帝国は紀元後6年からローマ帝国の属州ユダヤエとしてパレスチナを支配するようになったが、66年にエルサレムでユダヤ人の反ローマ反乱が起こると、ローマ軍はエルサレムに侵攻し、70年に第二神殿を破壊した。131年にユダヤ人の反ローマ闘争が再び開始されたが、ローマ皇帝ハドリアヌスは圧倒的な軍事力でユダヤ人を制圧し、エルサレムは徹底して破壊され、ローマの植民市となり、ユダヤ人のエルサレムへの立ち入りは禁止され、彼らは地中海地域に離散(=ディアスポラ)していくことになった。

 このように、神殿の破壊はユダヤ人たちにとってその艱難が始まる契機となったが、イスラエルのモシェ・ヤアロン元国防相・元軍参謀総長は今のイスラエルを「神殿の三番目の破壊」と形容するほど、イスラエルが危機的状況を迎えていることを指摘する。ヤアロン元国防相はイスラエルがガザ北部で民族浄化を行っていることを認めているが、こうしたイスラエルの政策や軍事作戦がイスラエルの行動の正当性を奪うもので、イスラエルを世界の「のけ者国家」にしていると警告している。

イスラエルは民族浄化を犯していると発言するヤアロン元国防相 https://www.facebook.com/kuwaittimesdaily/posts/israel-is-committing-war-crimes-and-ethnic-cleansing-in-the-gaza-strip-former-de/996488955858173/


 ガザ戦争が始まってから15カ月が経ち、イスラエル国民も戦争の負の影響、戦争の代償を実感するようになっている。ハマスやヒズボラなどの攻撃によって避難を余儀なくされる国民は10万人程度、2024年のインフレ率は3.1%、特に食品、住宅など国民生活の身近な分野でインフレが顕著だ。領土獲得による高揚感は薄れ、獲得した領土を維持するために軍事作戦を継続しなければならない。戦争で精神を病むイスラエル兵も増加し、女性国際シオニスト機構(ウィゾ)の最近の報告書によると、戦争開始から6カ月間で家庭内暴力事件が65パーセント増加したという。イスラエル中央統計局によると、2024年の最初の7か月間に4万600人のイスラエル人が国を長期出国しており、前年同期比59%増加した。これらの人々の多くはイスラエルの経済的、知的支柱を担ってきたが、国のハイテク専門家、医師、または上級学術教員が数万人だけ国を去れば、経済崩壊のスパイラルが始まる可能性があると、テルアビブ大学の経済学者ダン・ベン・デイビッド教授は警告している。

 イスラエルが危機を回避するには戦争を早期に止め、入植地拡大の停止、エルサレム占領の放棄など周辺諸国との共存を図るための政策を追求することがだが、イスラエルの極右政権にはそのような政策は眼中にまったくないように見える。

表紙の画像は「ローマ帝国の属州ユダヤエ
イェルサレムのヤハウェ神殿を掠奪するローマ軍兵士
ローマ ティトウス帝凱旋門のレリーフ」
https://www.y-history.net/appendix/wh0103-075_01.html

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