ホロコースト生存者たちの訴えと中東イスラーム世界の人びとの日本への期待
12月10日は「世界人権デー」だったが、この人権デーの最中にもガザではイスラエルの攻撃が間断なく行われた。
近現代史において最大規模の人権侵害として語られるのは、ナチス・ドイツによるユダヤ人大虐殺(ホロコースト)だが、2014年夏にイスラエルがガザを攻撃すると、327人のホロコースト生存者やその親族たちがイスラエルによるガザ攻撃を非難する意見広告を『ニューヨークタイムズ』紙に出した。その中でイスラエルによるガザでの「虐殺」が非難され、イスラエルを政治的・経済的に完璧にボイコットすることを訴えられている。
ガザの国連が運営する学校、病院、大学、さらには民家への攻撃はまったく正当化されるものではないというのが彼らの主張だった。また、電力や水をガザの市民たちから奪うことも不当であり、ガザへの経済封鎖を即座に停止することも呼びかけられた。米国がイスラエルに攻撃のための資金を提供すること、さらにイギリス、ドイツなどのヨーロッパ諸国がイスラエルを擁護することを非難している。パレスチナ人に対する大虐殺を含むあらゆる形態の人種主義のために一致して声を上げていくことが欠かせないことも述べられた。そして、ホロコーストの生存者たちは、イスラエル社会が極端で、人種的な非人道主義に陥っていることを指摘したが、現在、ガザを攻撃するイスラエルの軍事的スタンスや、その社会の趨勢、また欧米のイスラエル支持の姿勢には10年近く経っても2014年当時と何ら変化がないことがわかる。
北方領土、竹島、尖閣諸島と係争の地を抱える日本にとってパレスチナ人の苦悩は決して他人事ではない。その意味でも日本政府はパレスチナ問題にもっと関与してもよいはずだ。2019年にイギリスの調査会社YouGovがアラブ18カ国を対象に行った調査ではイスラエルとパレスチナの和平の最も中立的な調停者として日本を挙げた人が56%に及んだ。2位がEUの15%、3位がロシアの13%だったから日本はダントツ1位である。
https://www.arabnews.jp/en/middle-east/article_2448/
この結果には多くの日本人が驚くかもしれないが、軍事的に中東イスラーム世界に関わってこなかった日本にはアラブ・イスラーム世界から厚い信頼がある。
日本のJICA(国際協力機構)は中東安定化のカギとして、アフガニスタン、イラク、パレスチナに対する平和構築・復興支援をこの地域の最重要課題として取り組んできた。以下は、松永秀樹JICA元エジプト事務所長の発言を載せたページからの抜粋だ。
「イラク人の日本に対する期待は当初から高かった。私は2003年夏、北部のエルビル、キルクークやバグダッドなど、イラク各地を調査のため訪れたが、視察した多くの施設で親日的なイラク人に出会い驚いた。いろいろな日本人の名前を耳にした。日本製品・技術に対する信奉に加え、在留邦人が数千人規模であった1970年代、80年代に活躍した日本企業および日本のビジネスマンの活躍の記憶がまだ色濃く残っていたのである。・・・日本企業の美徳の一つが、一度請け負った契約は遂行する責任感である。」
現在、イスラエルはガザ南部のハンユニスを重点的に攻撃しているが、2014年3月11日、東日本大震災の犠牲者を追悼する凧揚げイベントでガザのハンユニスの子ども代表の男の子は「日本の皆さんに起こったことは、とても残念でとても悲しいことでした。日本の皆さんはパレスチナの子どもとみんなのために惜しみない支援をしてくれています。今日はガザから皆さんは一人じゃないと伝えたいです。みなさんを感じています。」と語った。(http://ccpreport.blog90.fc2.com/blog-entry-136.html)ガザの人々がいかに日本に感謝の気持ちを寄せているかがこの言葉からもうかがえるだろう。
パレスチナ・ガザ情勢に関する日本中東学会理事会声明(10月30日付)では日本政府に対して、
1)事態のエスカレートを防止し、政治的解決に向けた環境づくりに協同し、
2)軍事攻撃で破壊された社会・経済インフラの修復に向けた国際的な支援体制を構築し、
3)紛争鎮静化後には、問題の最終的・恒久的解決に向け、国際社会が共有する新たな枠組を創出する。
が呼びかけられている。日本政府には1993年の「オスロ合意」を主導したノルウェーのように、主体的に、能動的に日本に対する信頼を背景に中東和平づくりに貢献することをアラブ・イスラーム世界の人々は期待している。日本の政治家たちにはアラブ・イスラーム世界の人々の日本に対する期待を真摯に受け止め、自覚やバイタリティーをもって行動を起こしてほしいとつくづく思う。