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アサド政権崩壊後のシリアを空爆・砲撃するイスラエル ―アラブ・イスラム世界でますます反発されるイスラエルと米国

 イスラエルはシリアでアサド政権が崩壊するダマスカス近郊を空爆したり、イスラエルがシリアから占領するゴラン高原に接する緩衝地帯に地上軍が侵攻したりするようになった。イスラエルの空爆は、反イスラエルの武装集団に武器がわたることを阻止するためのものだとイスラエルは主張するが、イスラエル軍のシリアへの地上侵攻はイスラエル極右の大イスラエル主義のイデオロギーを表しているように見える。大イスラエル主義はイスラエルの領土の拡張主義で、ゴラン高原がそうであったように、占領から開始して、そこにイスラエルの主権を主張するようなことになりかねない。米国はトランプ1期目の2019年3月に、イスラエルの主権をイスラエルがシリアから占領するゴラン高原に認めた。

京都大学での講演を報じた長周新聞

 イスラエルは2023年10月7日、ガザでハマスの奇襲攻撃があって以来、12月初までに、220回以上、シリアを空爆と砲撃で攻撃し、296人のシリア人を殺害した。こうした攻撃もシリアの主権を侵害する国際違反の軍事行動であることは言うまでもない。

 イスラエルはアサド政権を打倒した過激派も、またこの過激派と対立するシリア国内のイランやヒズボラとの同盟勢力も、双方とも弱体化し、イスラエルの安全保障上の脅威にならないことを望んでいる。また、アサド政権が保有する化学兵器が反イスラエルの武装集団に移転される事態をイスラエルは恐れ、そうした事態を防ぐことに躍起となり、空爆を繰り返している。

アサド政権崩壊を歴史的な日と称賛するネタニヤフ首相

 イスラエルとレバノンの間では11月27日に停戦合意が成立したが、この停戦合意が継続するかどうかも疑わしい。停戦合意の補則では、イスラエルはヒズボラが停戦に違反していると判断すればレバノンを攻撃できる。停戦合意ではレバノンのリタニ川以南の地からイスラエル軍もヒズボラも撤退することになっているが、ヒズボラはリタニ川以南から対イスラエル国境までの地域で武器備蓄を行ってきて、ヒズボラがこの地域を放棄することはあり得ない。ネタニヤフ首相は、イスラエル北部住民たちの自宅への帰還を公約にしているが、ヒズボラとの停戦合意が不透明で、合意が崩れ、全面戦争に至る可能性があるために、ヒズボラのロケット弾やミサイル攻撃から避難しているイスラエルの住民たちの帰宅は当面実現しそうにない。

イスラエル軍はダマスカスから40キロの地点にまで進撃

 イエメンのフーシ派はイスラエルのエイラト港やスエズ運河に向かうイスラエル関連の船舶に対してミサイルとドローンで紅海の封鎖を維持している。フーシ派は米国主導の海軍機動部隊の展開があるにもかかわらず、その脅威は減ずることなく、スエズ運河を通る船舶の数は3分の2に減じた。海運会社はエイラト港に停泊する船舶はこの数カ月で1隻だけで、イスラエルのエイラト港湾会社は今年7月に破産を宣告した。

シリア領に初めて進撃するイスラエル軍の戦車

 従来敵対関係にあったイランとサウジアラビアは、2023年に中国の仲介で外交関係を正常化したが、その後着実に両国関係は改善している。10月3日、カタールで行われたイランのペゼシュキアン大統領とサウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハーン外相の会談でファルハーン外相は「「我々は、二国間の相違点を永遠に乗り越え、我々の問題を解決し、友好的で兄弟のような二国間関係の拡大に向けて努力する」と訴えた。また、同じ席上でムハンマド皇太子は、イスラエルのガザとレバノンに対する「侵略」と紛争を拡大しようとする試みによる「危機的状況」を強調した。彼は、サウジアラビアは状況をコントロールして平穏と平和を取り戻すためにイランの「知恵と洞察力」を信頼していると述べた。

「これがパレスチナ」―ベラ・ハディッド

 イスラエルのガザ・レバノン、さらにはシリアへの攻撃でイスラエルは地域で孤立するようになっている。米国は武器取引や軍事同盟でアラブ諸国の指導者たちをおとなしくさせることができていたが、アラブ・イスラム世界はイスラエルのガザやレバノンでの行動をまったく容認できないと考え、イラク、ヨルダン、エジプト、サウジアラビア、カタールなどの諸国は米国を信頼しないようになっている。イランはアラブ諸国にとってもはや「敵」ではなく、警戒がやや必要な国ぐらいになっている。

 イスラエル周辺のアラブ・イスラム諸国が米国から離反する中で、たとえ親イスラエル姿勢が顕著なトランプ政権になっても、日本は米国とは異なる独自の対パレスチナ政策を展開し、ガザへの人道支援を継続すべきだ。多くの国が一致してガザへの人道支援を行えば、それもガザを再占領するなどのイスラエルの不合理な政策への抑止力になるに違いなく、国際社会は一致してイスラエルと米国の不合理な政策や行動に「NO」を突き付けるべきだ。

表紙の画像は「ネタニヤフ首相はシリアの緩衝地帯を掌握するようにイスラエル国防軍に命じた」
https://www.youtube.com/watch?v=mk_EeVYtAC4

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