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トランプ当選で勢いづくイスラエルの極右勢力 ―ヨルダン川西岸併合という拡張主義を準備するスモトリッチ財務相
イスラエルの極右政党「宗教シオニズム」の党首ベザレル・スモトリッチ財務相は、米国大統領選挙でトランプ氏が当選したことを受けて、ヨルダン川西岸併合を準備するようにイスラエル外務省に命じた。
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ユダヤ系米国人のカジノ王シェルドン・アデルソン(1933~2021)は、2016年のドナルド・トランプの大統領選挙活動に9000万ドルを献金し、その見返りとして米国大使館をテルアビブからエルサレムに移転させた。
シェルドン・アデルソンは2021年に亡くなったが、その夫人ミリアム・アデルソン(1945年生まれ)は少なくとも1億ドルの寄付を今年の大統領選挙でドナルド・トランプ陣営に行い、その見返りとしてイスラエルによるヨルダン川西岸併合を求めている。選挙資金や裁判費用が足りないトランプは、公約の安売りをすることによって、寄付を募るようになったとイスラエルのハアレツ紙も書いている(24年6月3日)。米国民主主義の著しく腐敗した一面を見る思いだ。
米国の親イスラエル勢力の多額の寄付を得たトランプは、その政権時代、イラン核合意からの離脱、イスラエルの敵であるイランに最大限の制裁を科し、またイスラエルの入植地拡大を支持、パレスチナ人に対する米国の援助を削減、さらにイスラエルにゴラン高原の主権を認めた。献金の見返りに国際法や国際合意に違反する行為も平気で行った。今年春、トランプは即時停戦や軍需産業からの投資撤退を求めるアメリカの学生たちの運動を過激派革命の一部と形容し、「打ち負かしてやる」と公言した。
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スモトリッチ財務相は、「宗教シオニズム」の集会でスピーチを行い、トランプの勝利は「重要な機会」を提供し、ヨルダン川西岸に「主権を適用する時が来た」と述べた。スモトリッチは、ヨルダン西岸を併合するために必要なインフラを準備するスタッフの仕事を始めるように指示を出した。
イスラエルの極右政治家たちは、トランプの大統領選挙勝利を歓迎し、イスラエルが1967年の第三次中東戦争で占領した土地を併合する許可を与えることを望んでいる。イスラエルは、1979年にエジプトとの平和条約を結ぶと、タカ派のベギン政権はエジプトが抜け、相対的に力が弱まったアラブ諸国を刺激するような方策をとり、1980年7月に東西エルサレムを首都とする基本法を成立させ、1981年12月にはシリア領ゴラン高原を併合する法案を成立させて、東エルサレムとゴラン高原を併合した。言うまでもなく国際社会はイスラエルのこれらの措置を認めず、東エルサレムについては、国連安保理決議478号でエルサレムにおける外交活動を禁じた。米国は国連安保理の常任理事国だが、トランプ政権は2018年5月に米国大使館をテルアビブからエルサレムに移転した。
トランプ政権の一期目、イスラエルはヨルダン西岸のC地域(イスラエル軍が行政権、軍事権共に実権を握る地区)を併合するように思われたが、国際的な圧力と、米国政府からの支持がなく実現することはなかったが、トランプの当選で、イスラエルはC地域を含めたヨルダン川西岸全域の支配を目指すようになった。スモトリッチ財務相は、イスラエルの国境はシリアのダマスカスまで少しずつ拡大すべきだと述べ、イスラエルの拡張主義(大イスラエル主義)の考えを露骨に示している。
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表紙の画像は「大イスラエル」