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ガザの困窮する人々に想いを寄せる日本人の義侠心

 過日も紹介したガザで医療活動を行う中嶋優子医師はガザの人たちに日本人だと告げると、「日本も同じだったよね」とガザの人たちから語りかけられた。「第二次世界大戦の時に、日本も同じだったでしょう?家族ではない隣の人たちと助け合い、少ない食事を分け合い、狭いところで一緒に生活したんでしょう?お互いを助け合う共助で乗り越えてきたのは同じだよね」と幾度となく言われたという。(ハフポストの記事、12月6日)

中嶋医師 どうかご無事で  https://www.huffingtonpost.jp/entry/yuko-nakajima-msf-gaza_jp_6569db2be4b07b937ff46613?fbclid=IwAR3cHEZtmWnIrJobiRbRe2KE1cSCmHV5Kvfs3sN4eTWRQbDfSp4_2JQyaJM


 イスラム社会で特に重要と見なされるのは相互扶助の考えで、ガザの人々はイスラエルの攻撃を受ける中で助け合いながら生活していることをうかがわせるエピソードだ。また、パレスチナの人々は恩義を感じる人々だ。パレスチナで私が日本人であることを知ると、日本は病院や学校をつくってくれたと愛想よく感謝の言葉を言われることがしばしばある。中嶋医師も安全な国からわざわざ来てくれたと大変感謝されるそうで、それがガザの人々の希望になればそれでいいと語っている。(ハフポストの記事、12月6日)


 京都大学医学部で博士号を取得し、静岡県島田市で医院を開業するアフガニスタン人医師のレシャード・カレッド氏は「アフガニスタンをはじめ、多くの発展途上国は、日本の経済的進歩を喜び、アジアの国々では『兄貴分』として成功した日本に平和と繁栄を望んでおります。アフガニスタンの戦後復興にも無条件で惜しみない協力をしてきた日本を尊敬し、将来の目標にしてきました。我々、日本のNPO法人である『カレーズの会』(カレッド医師が主宰する)がアフガニスタンの地方の村々まで活動を広げ、地域住民に役に立つことができているのも、日本に対する信頼のおかげであります。」と述べている。(カレッド医師の近著『戦争に巻きこまれた日々を忘れない』[新日本出版社]より)



 弱者に対する同情や共感はイスラムという宗教の中の根本とも言ってよいだろう。
 「汝、孤児を苦しめるな」(93章9節)「乞う者を叱りつけてはならない」(同10節)
 「(神の審判を信じない者は)孤児を排斥し、貧者に食事を与えることを奨励しない者」(107章1~3節)「慈善を断る者」(同7節)などの章句がコーランにはある。
 イスラムの宗教の根本概念は唯一絶対の神を信じ、この世に「正義」「平等」を実現することであり、困った人を助けるのは当然のこととされている。

 もうすぐ12月14日、赤穂浪士に見られるような「義侠の心」はイスラム世界でも尊重される。関連すると思うが、ムスリムと日本人の人間関係で相通ずる考え方に、「任侠無頼」がある。

 『広辞苑』によると、「任侠」とは、「強きをくじく気性に富むこと。また、その人。おとこだて」また、「侠客」とは「 強気をくじき弱きを助けることをたてまえとする人。任侠の徒。江戸の町奴(まちやっこ)に起源。多くは賭博・喧嘩渡世などを事とし、親分子分の関係で結ばれている。おとこだで」とある。



高倉健と池部良


 中世のイスラム世界で活動した若者集団「アイヤール」(侠客)は、主にイラン・イラク地方で、富裕者から富を略奪する一方、外部の敵から都市を守る役割を担った。

 イランのカージャール朝では、ルーティーという集団が活躍した。ルーティーの語義は「他者に糧を提供する者」「生まれながらの奉仕者」「自発的提供者」などとされる(八尾師誠氏の説明による)。この集団の精神的な基盤となったのは、ペルシア語の「ジャヴァーンマルディー」という概念である。「ジャヴァーンマルディー」の意味は、「目上の者への敬意、困窮者への支援、仲間意識の尊重、献身的精神の発揮」である。

 中嶋医師の活動に日本人の義侠心を見る思いだが、10月16日に日本はガザでの即時停戦を求める国連安保理の決議案に、日米英仏が反対した。この日本の投票行動にガザでも日本は虐殺に加担しているという非難の声が上がった。(蜘手美鶴「ガザ空爆開始から2カ月:中東で期せずして上がった『反日の声』」nippon.com12月8日)日本が投票行動を共にした米英仏は中東諸国に軍事介入したり、パレスチナ問題の淵源をつくったりした国々だ。こういう不合理な意思決定を行った日本人は(おそらく岸田首相や上川外相の意向などが反映されているのだろうが)、アラブ・イスラムの人々の心情や中東の近現代史を理解せず、日本のせっかくの「資産」を台無しにしている。

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