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米下院、ICC(国際刑事裁判所)に対する制裁を議決

 米下院は9日、国際刑事裁判所(ICC)に対する制裁を科す法案を議決した。法案の内容は、ICCに関するローマ規程(Rome Statute of the International Criminal Court)の締約国でない米国と、その友好国の「保護対象者」を捜査、逮捕、勾留、起訴するICCの取り組みに関与した者全員に制裁を科すという内容で、賛成243票、反対140票、棄権1票で可決した。法案は「不当裁判所対策法(Illegitimate Court Counteraction Act)」と呼ばれ、イスラエルのネタニヤフ首相やガラント前国防相への逮捕状にも言及されているように、この二人に対するICCの逮捕状発行に対応することを目的としたものだ。推進したのは共和党だが、民主党からも45人の議員が賛成に回った。

2025年1月5日、ガザ地区中央部のデイル・アル・バラにあるアル・アクサ殉教者病院の遺体安置所で、イスラエル軍に殺害されたパレスチナ人の遺体のそばで嘆き悲しむ少年(AFP/Eyad Baba) https://www.middleeasteye.net/news/study-reveals-gaza-death-toll-40-percent-higher-palestinian-health-ministrys-count

 法案の条文には、米国は米国人とその同盟国の捜査や逮捕に関与、または実質的に協力した外国人に対し、ビザや財産の差し止めなどの制裁を科すこと、また「大統領は制裁対象者の近親者に対してもビザの差し止めなどの制裁を適用しなければならない」と規定されている。

アメリカとイスラエルの連帯を訴えるジョンソン下院議長(23年11月) https://www.aol.com/speaker-johnson-says-calls-israel-230905803.html

 この法案を推進したのは下院外交委員長のブライアン・マスト(Brian Mast)議員(共和党、フロリダ州第21区選出、1980年生まれ)で、12月に下院の外交委員長に就任したばかりだ。彼は23年10月7日にハマスがイスラエル南部を攻撃すると、イスラエルの軍服を着て、国会議事堂に現れた。また、2015年に志願兵としてイスラエルの軍役に就いたことがあり、イスラエル軍で活動したことがある米国唯一の国会議員だ。マスト議員は、イスラエルはガザ攻撃にいかなる手段を用いてもよいと主張し、ガザ住民たちが飢餓に瀕する中でガザへの人道支援は遅延すべきだと述べたり、ガザ住民はイスラエルの正当な暴力と飢餓による攻撃対象であり、無実のパレスチナ人などほとんどいないと語ったりしたこともある。9日に法案が下院を通過すると、マスト議員は「イカサマ裁判所は我々の偉大な同盟国であるイスラエルの首相を逮捕しようとしており、これはジェノサイドを行い、100人を人質にとっている敵を利するものだ」と述べた。また、マイク・ジョンソン下院議長は、この法案はネタニヤフ首相とガラント前国防相に逮捕状を請求したICCのカリーム・カーン主任検察官の鼻をへし折るものだと語った。

イスラエル軍の制服を着るブライアン・マスト議員 https://mast.house.gov/2023/10/week-in-review-october-6-12-stand-with-israel

 この法案は上院を通過すれば、60日以内に発効することになる。親イスラエルの姿勢が顕著なトランプ次期大統領や、トランプ政権で「政府効率化省(DOGE)」のトップになるイーロン・マスク氏などはもろ手を挙げて賛成することだろう。

 9日、医学雑誌『ランセット』が発表した報告書ではイスラエルが23年10月7日にガザ攻撃を開始してから24年6月末までの死者数を64,000人と推定したが、これはガザの保健省の報告した37,877人よりも40%ほど多い数字で、ガザの人口の3%を数える。

 12月2日、ICCの赤根智子所長は2日に始まったICC加盟国の年次総会の冒頭、「国連安全保障理事会の常任理事国(米国)から、(ICCが)テロ組織であるかのように脅迫されている」と非難した。また赤根氏は「国際法と国際司法は今、危機に面している。加盟国は法的な義務を果たす必要がある」と述べた。ICCの所長は日本人で、日本はICCに対する最大の資金拠出国だ。日本にはICCに加盟する124カ国をリードするような取り組みが求められていることは言うまでもなく、赤根氏の主張のように、ICC加盟国としての義務を果たすために、国際法の尊重を強調してネタニヤフ首相やガラント前国防相の逮捕を表明してもよいと思う。

介入や脅しは許されない https://www.youtube.com/watch?v=t_Kl2svLBlU

 イスラエルはガザの病院に対する燃料や医薬品の供給も制限しており、ガザ北部で唯一稼働する医療施設のアル・アウダ病院は活動停止に追い込まれそうな状態にある。イスラエルの人道に対する罪は明白で、ネタニヤフ首相らに逮捕状を発行したICCの判断が正当なことは明白のように思える。

赤根所長略歴 https://x.com/yukanfuji_hodo/status/1767449749207323025

 米国がICCの権威を骨抜きにしようとすれば、米国自体の国際的な指導力は低下するばかりだし、それを喜ぶのはウクライナ侵攻でICCから逮捕状を発行されているロシアのプーチン大統領など米国と敵対してきた人物だ。米国はプーチン大統領に対するICCの逮捕状には歓迎の意を表明した。ICCは米国と敵対するベネズエラの人権状況についても調査を進めてきた。また、トランプ次期大統領が嫌う中国が経済関係を深めるスーダンの人権侵害もICCの調査対象となっている。

私は米国人のルイズィ・モーガンです。私はパレスチナを支持します。あなたは?

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