見出し画像

病院攻撃 ―イスラエルのウソの主張が明らかになった

 イスラエル軍は先月、ガザ最大のシファ病院を攻撃したが、その理由は病院の5つの建物すべてがハマスの活動に関連し、病院の地下にはハマスの司令室が置かれ、そこからハマスのロケット攻撃の指示に使われていたというものだった。イスラエルは患者やイスラエルの攻撃による負傷者が犠牲になるのは、ハマスをこれらの人々を「人間の盾」として使っているからだと説明し、シファ病院の病棟からハマスのトンネルにアクセスできると主張していた。

真っ赤なウソだった イスラエル軍が15日に公表したガザ地区のシファ病院で発見したという武器(イスラエル軍提供、ロイター=共同)


 しかし、21日付の「ワシントンポスト」の記事” The case of al-Shifa: Investigating the assault on Gaza’s largest hospital”はイスラエルの主張は虚偽だったと断じている。ワシントンポストの記者たちが検証した結果、1.イスラエル国防軍によって発見されたとするトンネルのネットワークにつながっていたとする病室はハマスによって軍事的に利用されていたとする直接的な証拠はない、2.イスラエル軍のハガリ報道官によってハマスのトンネル網につながっていたとされる病棟は、いずれもハマスのトンネルとは関係がなかった、3.病院がトンネルに連結していたという証拠は見つからなかった、という結論が紹介されている。

ひどいことをする 12日、パレスチナ自治区ガザ北部の中心都市ガザ市にあるシファ病院で、停電後に保育器から出された新生児。【ロイター時事】 https://www.jiji.com/jc/p?id=20231113173904-0047056999


 アメリカのバイデン大統領も11月15日の記者会見でハマスがシファ病院の下に司令室を置いているというイスラエルの主張を繰り返し述べたが、いかなる証拠も示すことはなかった。バイデン大統領は「ハマスによる最初の戦争犯罪」(10月7日のハマスの奇襲攻撃)がシファ病院の地下からの指示で行われたと述べた。

 しかし、ハマスによる10月7日の奇襲攻撃は、長いパレスチナ問題の「文脈」の中で行われたもので、今年に限って見ても、イスラエルは10月7日までにヨルダン川西岸で200人以上のパレスチナ人たちを殺害し、ベン=グヴィール国内治安相はエルサレムのイスラームの聖地ハラム・アッシャリーフに足を踏み入れ、そこにユダヤ教の聖地に変えると繰り返し述べていた。

パレスチナ問題の100年を読み解く 「三枚舌」起点に 3 Graphics https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD055E50V01C23A2000000/


「国際刑事裁判所に関するローマ規程」には次のように定められている。
第八条 戦争犯罪
(iv) 宗教、教育、芸術、科学又は慈善のために供される建物、歴史的建造物、病院及び傷病者の収容所であって、軍事目標以外のものを故意に攻撃すること。

 イスラエルのエフード・オルメルト元首相(在任2006年5月~2009年3月)は、2008年12月から09年1月までのガザ攻撃を指示し、1300人のパレスチナ人の犠牲者を出した。また彼の在任時代に行われた2006年7月のレバノン侵攻では、国連レバノン暫定駐留軍(UNIFIL)の施設に砲撃があり、中国、フィンランド、オーストラリア、カナダの監視要員ら4人が死亡し、1200人のレバノン市民が犠牲になった。

イスラエル首相「私たちが対峙しているのは怪物」 クリスマス期間中も戦闘を続ける正当性を主張 12/25(月) 11:20配信 https://news.yahoo.co.jp/articles/35a4fefa9b873c5f9d3befa457c68e3621295559


 スイスの戦争犯罪法(1927年成立)では、国籍にかかわらず戦争犯罪に関わった人物に対して裁判を起こすことが可能だが、2019年7月にオルメルト氏はスイスで逮捕、拘禁されることを恐れてスイス訪問をキャンセルした。同様に、オルメルト氏はベルギーでも2006年7月にレバノン攻撃における人道犯罪で提訴されている。

 国際刑事裁判所は、イスラエルの戦争犯罪について調査を行っているが、その対象には数次にわたるガザ攻撃を指示したネタニヤフ首相も視野に入っている。パレスチナは国際刑事裁判所に加盟しており、パレスチナの提訴で、ネタニヤフ首相の有罪が確定すれば、国際刑事裁判所加盟国にネタニヤフ氏が渡航した場合、そこで逮捕・収監される可能性もある。イスラエルがこれ以上戦争犯罪を繰り返さないためにもクリスマス期間中の攻撃も「我々は怪物と対峙している」と市民の殺害をいとわないネタニヤフ氏の責任は厳しく追及されるべきだ。

パレスチナ問題の100年を読み解く 「三枚舌」起点に 3 Graphics https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD055E50V01C23A2000000/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?