プーチン大統領に捧げる歌 ―大統領、あなたの血を流してください
昨年3月4日の朝日新聞「天声人語」に下のようなシャンソン「脱走兵」の一部が紹介された。
大統領閣下/私は戦争はしたくありません/可哀相(かわいそう)な人たちを殺すために/生まれてきたからではないからです〉〈血を流さなければいけないのなら/あなたの血をどうぞ〉(村上香住子〈かすみこ〉訳)
まさに現在のプーチン大統領に捧げたいような歌で、大統領に語りかける内容となっている。日々のニュースに接していると、爆弾や砲撃から逃げ惑い、難民化するウクライナの人々の光景が目に浮かんでくる。市民はこの歌にあるようにまったく可哀相な人々だ。この歌詞はフランスの作家・詩人ボリス・ヴィアン(1920~59年)によるもので、インドシナ戦争中に作られたが、アルジェリア独立戦争の勃発で放送禁止歌となった。虚弱体質で戦争に行くことはなかったヴィアンは、脱走兵の心情をよく理解できていたのかもしれない。
(沢田研二が歌う「脱走兵」の動画は https://www.youtube.com/watch?v=wkn8mbTju7U にある。)
19世紀後半以降、普仏戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦、第一次インドシナ戦争、アルジェリア独立戦争と、戦争に次ぐ戦争を経たフランスには反戦感情を唄う歌が少なくない。「脱走兵」と同じ頃(1952年)作られたシャンソンに「兵隊が戦争に行くとき」がある。作詩・作曲はフランシス・ルマルク、作者のフランシス・ルマルクも歌っているが、イヴ・モンタンが歌ってヒットした。(モンタンの歌の動画は
https://www.youtube.com/watch?v=lEJyRJQ8fro にある)
ごらん 若者が 戦に出ていく
かわいい恋人に 心のこして
ごらん 夏の日の 青空が見つめてる
遠く地の果てに 死ににいく若者を
これが人の世の 哀しい定めか
恋の誓いなど 儚(はかな)いものさ
華やかな歌声で 戦争に行くけれど
戻って来られるのは
運のいい奴だけさ 運のいい奴だけさ
運のいい奴 だけなのさ (日本語詞:水野汀子)
この歌は軽快な調子の中で、戦争を皮肉るようにその本質を表している。ウクライナの破壊された街の様子はパレスチナのガザ、チェチェン、シリアのホムスなどと同様に荒廃し、殺伐としたもので、見る者の心を凍てつかせる。シャンソン「脱走兵」が歌うところは、加川良の「教訓1」でも表現されているが、日々のニュースでもよくわかるように、破壊、殺戮ばかりで何も残さない戦争は日本の反戦歌でも次のように歌われる。
死んだ子供の残したものは
ねじれた足と乾いた涙
他には何も残せなかった
思い出ひとつ残さなかった
(谷川俊太郎・作詞、武満徹・作曲の「死んだ男の残したものは」)
近現代史の中で絶え間ないほど戦争をしてきたフランスは、最近西アフリカのマリから軍隊を撤収させた。フランスはマリでアルカイダなどの武装集団と戦闘を行ってきたが、アフガニスタンのタリバンと同様にマリでも民意とつながってきたのはイスラム主義の集団で、「よそ者」のフランスではなかった。戦闘で現地の人々を殺害し、現地の人々に恩恵を施すことがなかったフランスは反発され、ついには撤収せざるを得なかった。
ロシアの大統領閣下は、戦場の悲惨さ、血を流し、絶え果てる子供、女性、老人など可哀相な人たち、破壊され、倒壊する建物、荒んだ街の様子をご自身の目でご覧になったらどうだろう。
アイキャッチ画像はベルリンで
https://mobile.twitter.com/Mar.../status/1496711071226376194