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トランプのような「独裁者」の支配に苦しんだカタルーニャはガザと連帯し、共生を訴える

 米国のトランプ大統領は19日、ウクライナのゼレンスキー大統領のことを「独裁者」と呼び、支持率4%と語った。昨年12月に行われた世論調査では57%だったからトランプ氏が口にする数字はまったく信用できない。「独裁者」はある社会において権力を独占し、物事を単独で恣意的に決める人物のことだからトランプ氏の手法や姿勢のほうがよほどその形容にふさわしい。

日本テレビのニュースより


 同じ19日の朝日新聞の夕刊に「サッカーも絵画も、カタルーニャの魂 バルサ応援、ミロが『Ç』に込めた思い」という記事が載った。スペイン・バルセロナ出身で、ピカソやダリと並び称される画家の巨匠ジュアン・ミロ(1893~1983)はサッカーのFCバルセロナ(愛称「バルサ」)の大ファンだった。フランコ独裁政権時代(1936~75年)、バルセロナがあるカタルーニャ地方の民族アイデンティティは抑圧され、カタルーニャ語の使用も禁じられた。ミロは1975年にFCバルセロナ創設75周年のポスターを制作したが、そこにはスペイン語にはない、カタルーニャ語で使われる文字「Ç」(sの音)が強調されていた。1975年はスペインの自由への兆しが見られた時代で、「Ç」という文字を訴えることで、ミロはカタルーニャの人々の不屈の精神、民族解放への願望や希望を表したかった。

FCバルセロナの創設75周年記念ポスター=1974年、ジュアン・ミロ財団、バルセロナ Fundacio Joan Miro,Barcelona. (C)Successio Miro/ADAGP,Paris & JASPAR,Tokyo,2025 E5746 朝日新聞の記事より


 世界的なチェリストであったパブロ・カザルス(1876~1973年)は、1971年10月24日の国連総会での演奏会で「鳥の歌」を演奏したが、次のように述べた。

「私は、もう14年近く人前で演奏していませんでした。今日は弾かなければなりませんね。短いカタルーニャの民謡を弾こうと思います。「鳥の歌」という曲です。鳥たちは、空を、大空を飛びながら歌います。『ピース! ピース! ピース!』と。この音楽は、バッハやベートーヴェンや、すべての巨匠たちが愛し、称えたであろう音楽です。とても美しく、そしてまた、私の祖国カタルーニャの魂でもあります。(訳:中村ひろ子)」

カザルス「鳥の歌」 https://www.center-group.net/items/38445495


 カザルスは「鳥の歌」の演奏にカタルーニャの希望や平和への願いを込めた。カタルーニャ語の使用が認められるようになったのは、1975年に独裁者のフランコが没し、さらに1978年にカタルーニャ自治憲章でカタルーニャ語が公用語になってからのことだった。

 15世紀からスペイン支配の下に置かれたカタルーニャ地方では、イスラエルの植民地支配を受けるパレスチナに対する同情や共感が強くある。23年11月24日、カタルーニャ州の州都バルセロナ市はガザ紛争で恒久的な停戦が成立しない限りイスラエルとの関係を断絶すると宣言した。この宣言はハマスとイスラエル双方による民間人に対する攻撃を非難するとともに、ガザ住民に対するイスラエルの集団的懲罰、強制退去、住宅や公共インフラの破壊、エネルギー、水、食料、医薬品の供給の遅滞に対して抗議を行っている。これをハマスは歓迎し、ハマスはこのバルセロナ市議会の決定が人道主義、自由や正義の価値観の勝利だと主張し、世界の都市がこれに続くことを呼びかけた。ガザの人々もカタルーニャの民族自決運動に共感を覚えるようになり、昨年7月14日に行われたサッカー・ユーロ24の決勝スペインvsイングランドの試合では、スペインを応援するガザの人々が圧倒的に多かった。

ガザ支援のダイインを行うバルセロナ市民


 1月19日、カタルーニャのパレスチナ人コミュニティとベルギーに本拠を置くヒンド・ラジャブ財団は、イスラエル軍のモリ・ケイサー軍曹に対して戦争犯罪に関与したとしてバルセロナの裁判所に告訴の手続きを行った。訴状では、ケイサー軍曹が民間人の家屋を軍事目的で使用し、手りゅう弾を使って国連の学校を攻撃したことが明らかにされた。さらに、ケイサー軍曹は住民の強制退去やナセル病院の襲撃にも関与したとされている。

 カタルーニャ地方で、アラビア諸学を吸収したオーリヤックのジェルベール(940頃~1003年)は、後にフランス人として初めてローマ教皇(シルウェステル2世、在位999~1003年)になる人物だが、当時のヨーロッパでは解けなかった数式に解を与え、驚嘆をもって周囲から見られるようになった。

初のフランス人ローマ教皇・シルウェステル2世(オーリャックのジェルベール)


 ジェルベールは、アラビア語の学習によって獲得した数学や天文学などアラブの科学をフランス北部のランス大聖堂の学校などで教育者としてヨーロッパに伝達し、また神聖ローマ帝国のオットー3世(在位983~1002年)に政治的アドバイスを行うなど、10世紀後半のヨーロッパの発展にとって特筆すべき人物となった。

 「米国を再び偉大に」などの狭量なナショナリズムに訴えるトランプ大統領は、カタルーニャの「鳥の歌」に表される平和や希望の精神、またカタルーニャで学んだジェルベールのように共存や共生の知恵を学んだらどうだろうか。



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