
トランプ再登板を心待ちにするネタニヤフ首相 ―ジュディス・バトラーのトランプ・イスラエル批判
秋に行われる米大統領選は「もしトラ」からトランプ当選が有力視される「ほぼトラ」に変わりつつあるそうなのだ。移民を嫌い、極端な保護主義的政策を構想するトランプ氏は3月16日、オハイオ州での演説で、移民を「ケダモノ」と形容し、メキシコ製の中国車に100%の関税をかけると発言した。

トランプ再登板を最も期待しているのは、バイデン政権と対立してきたイスラエルのネタニヤフ首相やロシアのプーチン大統領に違いない。バイデン政権はパレスチナ政策では二国家解決を訴え、イスラエルのガザ攻撃に苦言を呈し、ネタニヤフ首相のことを「asshole」とも呼んだことが伝えられている。トランプ時代、アメリカは大使館をテルアビブからエルサレムに移転し、シリアのゴラン高原にイスラエルの主権を認めるなど、イスラエル寄りの姿勢を露骨にした。ガザからパレスチナ人を追放するというイスラエル極右の姿勢をトランプ氏などは支持することがあるかもしれない。
アメリカの哲学者のジュディス・バトラー(1956年生まれ)によれば、トランプの支持者たちは、政府は自分たちが経済的に成功する可能性を妨害し、政府による規制や介入に反対し、トランプ大統領が連邦税を払わなかったことを称賛し、彼のようになりたいと考えている。一部の支持者たちは、自らの怒りがトランプ大統領の公に放たれる、何にも抑制されない言動によって解放されていることに興奮を覚え、リベラルや左翼を抑圧的な機械と考え、トランプ大統領を解放の主体と見なしている。支持者たちは、オバマ政権時代に成長した左派、フェミニスト、公民権や社会的平等を求める運動によって抑圧され、一種の検閲を受けたような気分になっているというのがバトラーの観察だ。

ユダヤ人のバトラーは、『分かれ道 ―ユダヤ性とシオニズム批判』(青土社、2019年)の中で、「自分たち(ユダヤ人)だけが占有する国土(という一者性)」に固執するイスラエル国家に対して、バトラーは「ディアスポラ的な自由において、他者に開かれ、他者の中で共存するという民族性」においてユダヤ人は特徴づけられる、と述べ、「他者の中に入っていき、かつ、他者と同化するのではなく、お互いの違いを認め合って共生していく力をこそ、ユダヤ民族の美質だと捉えなおすべきだ」と主張している。
バトラーはイスラエルの過度の国家的暴力と人種差別を批判するのは、ユダヤ人としての社会正義の価値からだと述べている。彼女は、イスラエルの占領と包囲を含む植民地支配の終焉のためには、イスラエル・パレスチナの同等な権利、パレスチナ人の民族自決権を提案しなければならないと訴え、イスラエルとパレスチナが実質的平等や実質的正義を達成するかどうかという問題については、土地所有の権利や土地の再分配計画を考えなければならないだろうと述べている。
(Judith Butler: On Israel, Palestine and Unacceptable Dimensions of the Status Quo)
科学者のアインシュタインもバトラーと同様に、1936年1月25日にアメリカの法律家ルイス・ブランダイスに書かれた手紙で、ユダヤ人は本来ナショナリズムを否定する人々で、ユダヤ人共同体に永続性があるのは、地理的に分散して生活しており、民族的狂信主義から発する愚かな行為をするほどの力の道具をもっていないからであると論じている。ユダヤ人は国家をもつよりも離散して暮らすほうがその運命にかなっていると言っているかのようだった。

これらの主張はまったく正当なものに思え、トランプ当選となれば、ロシアでプーチン大統領が再選されたことと合わせて世界を再びナショナリズムの潮流が覆うことになるだろう。世界には極右的ナショナリズムに対抗する、声や知恵、また結束がますます求められている。