ルイ・アームストロングの「素晴らしき世界」が教えるガザ戦争と環境問題
今年4月22日に発表されたDiscover Musicの「ベスト・アースデー・ソングズ:30の環境を救うクラシックスBest Earth Day Songs: 30 Save The Environment Classics」で1位となったのは、ジャズ・トランペット奏者で、歌手のルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界(What a wonderful world)」だった。
https://www.udiscovermusic.com/stories/best-earth-day-songs/
その歌詞は下のようなものだが、ナンバー1に選ばれたのは、現在の世界は美しくなく、二酸化炭素の排出で大気は汚れているという「反語」のように皮肉の意味が込められ、世界はこの歌のような世界に戻らなければならないと訴えているかのようだ。この歌は1987年の映画「グッドモーニング、ベトナム」の挿入歌として使われ、その時は環境問題ではなく、醜い戦争とは対比するものとして映画の中で歌われた。あまりに有名な曲だが、歌の動画は
https://www.youtube.com/watch?v=czI0VtKsvFM
にあり、ルイ・アームストロングの温かな情感溢れる歌いっぷりに接することができる。
I see trees of green
Red roses too
I see them bloom
For me and you
And I think to myself
What a wonderful world
緑の木々が見える
赤いバラも
咲いているんだ
僕と君のために
そしてひとり思う
なんて素晴らしい世界なんだ
I see skies of blue
And clouds of white
The bright blessed day
The dark sacred night
And I think to myself
What a wonderful world
青い空が見える
そして白い雲も
輝き祝福された日
暗く神聖な夜
そしてひとり思う
なんて素晴らしい世界なんだ
(後略) 訳は
https://www.worldfolksong.com/jazz/wonderful-world.html
より。全体の歌詞と和訳はこのページをご覧に頂ければと思う。
戦争は土壌の汚染、森林の破壊、自然資源の略奪など深刻な環境破壊をもたらす。イスラエル軍のガザ攻撃が大気汚染、水質汚濁、生態系の悪化などの問題を起こしていることは容易に想像がつく。
日本もアジア太平洋戦争で重大な環境破壊を行ったことは想像に難くない。日本軍が行った破壊について贖罪の想いからフィリピンでマングローブの植林に努めた日本人がいた。土居潤一郎氏(1920~2003年)は通信部隊の小隊長としてフィリピン・ネグロス島で終戦を迎えた。戦中、部隊が山中に退避する際にネグロス島のシライ市の教会の爆破を上官から命ぜられたが、爆破したと偽って報告したことがあった。教会は住民たちの避難場所になっていて、爆破は無辜の住民たちの死をもたらすことになる。実際に爆破を行っていたら戦後も現地住民たちの反日感情は根強く定着しただろうと土居氏は語っている。
戦後、1974年にフィリピンを再訪すると、現地に残され、「敵国人」とされた日本人や、日系2世、3世の困窮した生活を目の当たりにして、その支援に着手するようになるとともに、戦中に「迷惑をかけた」現地の人々の役に立ちたいと考えた。現地の貧しい人々に食事を提供し、「お腹いっぱい食べさせてあげたい」が口癖になった。
フィリピンでは1970年代より魚やエビの養殖のために、マングローブの伐採が進んだが、土居氏の呼びかけで「イカオ・アコ」というNPOが起ちあがった「イカオ・アコ」は、フィリピンの言葉で「あなたと私」という意味だが、1997年から活動を開始して、2020年までに175万本の植林を行った。戦場であったフィリピンでのマングローブ林の復興を考え、生物の再生を考えた土居さんの活動は、日本に環境問題に取り組む先駆者たちがいたことを教え、またガザ戦争でも命を奪われる声なき生物がいるという戦争と環境問題の本質を教えている。「素晴らしい世界」を取り戻すためにもイスラエルのガザ攻撃を一日も早く止めさせなければならない。