入管法改正 ―外国人の命が軽い日本
入管難民法改正案が参議院法務委員会で可決された。原則3回以上の難民申請が不可能になり、申請者たちに帰国を迫るケースが増えることが確実になった。日本も加盟する難民条約では難民申請中の送還を禁じ、申請回数にも制限はない。国連人権理事会の特別報告者も改正案を国際人権基準に満たないと勧告した。入管法改正はこの難民条約の原則にも違反することになる。にもかかわらず、この改正案が成立しそうだ。
2019年3月、東京入国管理局に収容されていたクルド人の難民申請者チョラク・メメットさんが体調不良を訴え、支援者が呼んだ救急車で搬送されなかったことがあった。東京入国管理局は、「救急搬送の必要はないと判断した」と説明したという。Forbesの記事で、難民申請者の支援を行うNPO法人WELgee(ウェルジー)の代表・渡部清花さんは、「命の危険があるときに『あなたは日本に在留する資格がないので病院へは連れて行きません』と対応するのは、人権侵害に他ならない。」と述べた。
これは日本の難民申請者に対するずさんな医療体制を表す一事例であったが、2019年に日本では入管法が改正され、新制度の「特定技能2号」によって、高い技能をもつ外国人たちが制度的に家族の帯同を認められ、期間の上限なしに滞在期間を更新できるという事実上の外国人の永住システムが確立された。入管法が改正され、外国人就労が拡大される一方で、難民申請を行う人々は強制送還するというのは矛盾している。難民申請者を日本の労働力に取り込む努力や工夫は目下のところ見当たらない。
チョラク・メメットさんのようなクルド人たちが日本を目指すのは、出身国と異なって日本には平和や安定、人権の尊重があるという理由が大きかったが、難民認定が事実上不可能な状態では日本が人権を尊重する国というイメージは容易に崩れることだろう。難民認定されるには、「申請者が難民であることを証明する資料」を提出することが不可欠だが、客観的に証明することはきわめて困難であるに違いない。
シリア内戦では680万人が難民として国外に流出したが、現在ロシアの侵攻が続くウクライナ出身の難民は800万人とそれよりも多い。ウクライナ難民がシリア難民より多いのは欧州諸国が容易に難民認定し、支援を行っていることがある。欧米諸国はシリア難民の受入れを渋ったが、それでもシリア難民の場合、2020年の難民認定率はドイツが78%、アメリカが62%、オーストラリアが89%だった。日本ではシリア内戦が始まった2011年から2020年の間にシリア難民は117人が申請したところ認められたのはわずかに22人だった。(難民支援協会)申請した人数も117人というところに日本の難民認定の厳しさが世界に知れ渡っていることがうかがえる。
少子高齢化が進む国だが、外国人の社会的役割を拡大することで、高齢化への対応もできる。特にクルド人やシリア人などイスラム系の人々の難民申請を拒むのは、日本ではイスラムは薄気味悪いとか、さらには物騒という感情が先だってその文化が正しく理解されていないこともあるように思う。外国人が背負った文化を正しく理解しない限りは外国人嫌いの感情のほうが先だってしまうだろう。政治家たちがイスラムという文化に習熟しているようにはとても見えない。入管法改正は日本の外国人嫌いをますます加速させる印象で、難民認定の厳格な日本では強制送還者が確実に増えることは間違いなく、国際社会における日本への信頼を低下させることに政治家たちは気づいているだろうか。日本政府には難民問題について積極的に取り組む姿勢が感じられず、面白くない発言が続いている。
「難民に対する基本的な考え方についての議論で、国会の議論なども踏まえながら対応しなければいけない。この時点で何か変更することは考えていない」―岸田首相(2022年4月8日の記者会見)
「今、戦争と危機の結果、多くの人々が文字通り死と隣り合わせになっています。私たちの国に保護を求める人々を助け、受け入れることは当然のことなのです。私たちにはできます」―ドイツ・メルケル首相(2015年難民危機で)