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西田敏行さんが教える歴史と非戦の想い

 俳優の西田敏行さんが亡くなった。イラン大使館がイランの俳優を呼んで映画の上映会をした時にあの役者は日本で言えば、西田敏行さんのように人気があるんですよ、と大使館員から言われ、そのイラン人俳優の人気の度合いを納得したことがある。

いろいろ印象に残る作品はあるが、ミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」の主人公テヴィエの役を森繫久彌から引き継いだことをよく覚えている。このミュージカルのストーリーは旧ロシア帝国のウクライナでユダヤ人の伝統的なしきたりがひとつの家族の中で次第に崩れていく様子を描いたものだったが、最後家族はユダヤ人に対する暴力的襲撃(ポグロム)が席巻する中でニューヨークに向かうところで終わる。(原作ではパレスチナに移住していった。)

1994年「屋根の上のバイオリン弾き」でテヴィエ演じた西田敏行さん(c)東宝演劇部 https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2024/10/17/gazo/20241017s10041000255000p.html

ポグロムは、ユダヤ人に対する凄惨な暴力を伴ったために、現在のイスラエルの軍事信仰の一つの背景となった。強力な軍事力をもたなければ、自らの生存が危うくなるという軍事優先の考えをシオニストはもっている。ポグロムは1881年のロシア皇帝アレクサンドル2世の暗殺事件を契機にし、実行犯はユダヤ人ではなかったが、犯行に関与した中に一人のユダヤ人がいた。ユダヤ人に関するデマが飛び交い、時代が下って1918年から21年に行われたポグロムでは10万人が犠牲になったと見られている。あたかも関東大震災後の朝鮮半島出身者に対するテロを彷彿させるものがある。

坂の上の雲 https://x.com/uclar_senal/status/635057865082843136

 ポグロムは旧ロシア帝国のユダヤ人たちがシオニズムに基づいてパレスチナに移住するきっかけを与えることになった。建国後のイスラエルの政治指導者に現在のネタニヤフ首相を含めて旧ロシア帝国出身者が多いのも、ポグロムが歴史的要因になっている。西田さんはテヴィエを演じながら現在のヘイトや差別について思いをめぐらしたかもしれない。日本では川口の「クルド人死ね!」などのヘイト的書き込みが横行するようになっているが、現在のイスラエルのジェノサイドはテヴィエのヒューマニズムとはまったく似合わない。

 西田さんはウィキペディアなどによれば強い反戦の想いをもっていたようだ。母親の影響が大きく、あなたが戦争に行くようなことがあっては絶対嫌だと言われていたという。明治大学在学中は、学生運動に参加し、偽札製造や生物化学兵器の開発を行った登戸研究所跡地の保存を求める運動も行った。また、日本が戦争を二度としないためには、日本の過去の歴史を直視し反省しなければならないと考えていた。山田洋次監督、黒柳徹子さん、森村誠一氏らとともに、写真や証言などで南京大虐殺や731部隊、従軍慰安婦問題など日本の負の歴史を明らかにする「平和のための戦争展」開催の呼びかけ人の一人となっている。日本は平和ボケしているって言われるけど平和でボケているのは別にいいんじゃないのと述べていた。

秘密戦(防諜・諜報・謀略・宣伝)の兵器・資材の研究・開発が行われた、日本陸軍の「登戸研究所」は、「日本高等拓植学校」跡の土地・建物へ、1937(昭和12)年に移転してきた。同年、「日中戦争」が始まり、陸軍では秘密戦の強化が求められた時代でもあった。写真は1944(昭和19)年、三笠宮親王殿下(昭和天皇の弟)による「登戸研究所」への視察の様子。後ろの建物は「登戸研究所」の「本館」で、「日本高等拓植学校」時代は校舎だった。 【画像は1944(昭和19)年】 https://smtrc.jp/town-archives/city/shinyurigaoka/p03.html


「過去に学ばない者は、過ちを繰り返す」

―ジョージ・サンタヤーナ (スペイン出身のアメリカの哲学者・詩人)

 2015年5月5日、米国の日本研究者、歴史学者など187人が連名で「日本の歴史家を支持する声明」を公表した。戦後70年間の日本と近隣諸国の平和を称賛しつつも、歴史解釈の問題が「世界から祝福」を受ける障害となっていることを指摘した。187人の中には、ハーバード大のエズラ・ボーゲル名誉教授、同入江昭・名誉教授、マサチューセッツ工科大のジョン・ダワー名誉教授、英国のロナルド・ドーア氏ら世界的に著名な学者たちが含まれる。声明は「戦後日本が守ってきた民主主義、自衛隊への文民統制、警察権の節度ある運用と、政治的な寛容さ」などは「全てが世界の祝福に値する」と称えられているが、しかし世界から祝福を受けるにあたって、日本政府の「歴史解釈の問題」が障害になっている、と述べていると、安倍政権の歴史観を念頭に指摘した。

表紙の画像は「《逝去》西田敏行さん、杖と車椅子なしでは外出できなかった晩年 劇場版『ドクターX』現場が見せていた“最大限の配慮”」
https://www.news-postseven.com/archives/20241017_1998339.html?DETAIL

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